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『絶望の文在寅、孤独の金正恩:「バイデン・ショック」で自壊する朝鮮半島』、重村智計 著、ワニブックスPLUS新書、2021年。
毎日新聞ソウル特派員そして同紙論説委員を務められた重村氏(1945年生まれ)が、現在の朝鮮半島情勢を解説なさいました。
わたしは氏を存じておりませんでしたが、
自分ほど韓国人や朝鮮人を弁護し、知識人の韓国差別と蔑視意識を批判した新聞記者はいない、との自負がわたしにはある。(pp.19)
こうした人物でいらっしゃるそうです。
そんな著者ながら、『絶望の文在寅、孤独の金正恩』においては、大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国に冷徹かつ相当きびしい目をそそぎ、ご自論を展開されました。
おかげさまで、読者は新奇な情報に接することができます。
わたしがおどろいた新しい情報として、
北朝鮮は、米大統領選から半年が経っても「トランプ落選」と「バイデン大統領誕生」を報道しない。(pp.12)
知らなかったです……。
のちほどのページにて重村氏が記されている北朝鮮独特の事情を読み、合点がゆきました。
あるいは、
韓国外務省は、バイデンの大統領当選が確実になると、韓国とバイデンの間の外交関係を再調査している。その際、2015年末、日本の安倍晋三政権と韓国の朴槿恵政権が交わした「日韓慰安婦合意」は、アメリカのオバマ政権下で副大統領を務めていたバイデンの仲介だったことを知った。(pp.126)
これも初耳。
文政権は「日韓慰安婦合意」を足蹴にしたわけで、
この事実は、文在寅、そして大統領府には大きな衝撃だった。覆水盆に返らず。バイデンの必死の働きかけを、文在寅はそうとは知らず、すべて無駄にしたのである。(pp.128)
副題「バイデン・ショック」は、この件に由来しています。
ほか、北朝鮮における「トランプ・ロス」、韓国で発された徴用工証言への疑義、北朝鮮や韓国と中華人民共和国との距離感、北・韓の外交へおよぼす日米同盟の重みなど、半島状況におくわしい著者ならではの充実した内容でした。
本書「あとがき」では、
この本は、韓国や北朝鮮の崩壊を期待して書いたものではない。(中略)
日本と韓国は、「嫌韓」と「反日」を乗り越えるべきだ、との思いを込めた。(pp.250)
と、お書きになっています。
以下、わたしの根拠薄弱たる個人的見解にすぎないものの、日韓両国が「嫌韓」「反日」を乗り越えることはできないだろうと考えます。
たとえできるとしても、それは数世紀ぐらい先なのではないでしょうか。
むしろ、わが国は、いつか北朝鮮で革命・政権交代が起こったあかつきに、新生・北朝鮮と理解し合い友好関係を築いてゆくほうが、おそらく容易であり、国益につながりやすいかもしれない、と感じました。
あるいは、苦労しつつ既述2カ国との修交を進めるよりも、台湾・ベトナム・タイ・マレーシア・フィリピンといったところとの友誼をますます深めるのが、妥当なように思われます。
金原俊輔