最近読んだ本453
『ベトナムを知れば見えてくる日本の危機』、梅田邦夫 著、小学館、2021年。
かつて外務省に勤務され、駐ベトナム全権大使でもいらした梅田氏(1954年生まれ)による「ベトナム - 日本」論です。
2カ国には「自然の同盟関係(pp.79)」が結ばれている旨のご指摘が本書のポイントでした。
なぜ自然な同盟関係が醸成されたかに関する多数の理由が詳述されています。
たとえば、日本は13世紀に2度「元寇」を経験しました。
元は3度目の日本襲撃を計画していたが、ベトナムの抵抗が激しくなり、1287年フビライ・ハンは日本遠征を中止してベトナムへの攻撃を強化した。(中略)
それで日本は3度目の襲来を免れたのだ。(pp.84)
あるいは、20世紀初頭の「日露戦争」。
40隻からなるバルチック艦隊は、日本海海戦に臨む前に最後の寄港地としてベトナム中部のカムラン湾に寄港した。親日的であったベトナム人が補給などでサボタージュを図るとともに、燃料の石炭に泥を混ぜたことが、日本海海戦における日本勝利の一因であったともいわれている。(pp.85)
日本史のなかでトップレベルの重大事の都度、ベトナムが応援してくれていたわけです。
ありがたく思いました(ただ、残念ながらベトナム人にはボッタくる性向があるため「最近読んだ本86」、石炭に泥を混ぜた理由はかならずしも親日的な気もちだけでなかったかもしれません)。
そして、両国のあいだで自然な同盟関係が築かれているとりわけ大きな要因が、現今の日越と中華人民共和国との「軋轢(pp.65)」です。
この件に関し、ベトナムは、
ベトナムが10世紀以降独立を維持できたのは、「北の大国」からの侵略に対して国民が一体となって戦ってきたからである。現在もベトナム政府は領土や領海など主権が侵されることがあれば、断固として戦うことを繰り返し公言している。国民の多くもそのような政府の危機意識と国防意識を共有している。(pp.284)
かたや、わが国のほうはどうか。
梅田氏は、
日本人は(中略)中国が台湾や南シナ海と同様に尖閣諸島の奪取に動いていること、そして、尖閣の次は沖縄を狙っていることを肝に銘ずるべきである。そして日本の領土、安全を守るために、断固として戦う用意のあることを国民の意思として固める必要がある。(pp.286)
こう助言されました。
われわれ日本国民は氏の助言を傾聴しなければならないと考えます。
ところで、
ベトナムの平均年齢は31歳(2019年時点)である。(pp.237)
そんな若いベトナム人が大挙来日して学び、働いているのは、だれもが知る事実。
わたしの地元・長崎県とて例外ではありません。
以上にともない、ベトナム系在留者たちが日本で非人道的なあつかいを受けたり、犯罪に走ってしまったりしている状況が、しばしばメディアで取りあげられだしました。
著者はそのことを心配され、
ベトナムの若者たちは、「夢」や「期待」に胸を膨らませて技能実習生や留学生として訪日する。初めから、犯罪者や失踪者になろうと考えている人はいない。彼らを犯罪や失踪、不法滞在に追い込む要因はベトナムと日本の双方にある。(pp.123)
ベトナム人の若者を日本国内でどのように支援するかは、日本自体の治安にも関わる緊急の課題である。(pp.151)
『ベトナムを知れば~』はベトナムと日本への深い愛情に満ちた読物です。
金原俊輔