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『文部科学省:揺らぐ日本の教育と学術』、青木栄一 著、中公新書、2021年。

全官庁における文部科学省の位置づけはどの程度なのか?

有力な政治家が文部科学大臣に任命されるのか?

文部科学省には東大卒・京大卒の職員が多数在籍しているのか?

文部科学省のキャリアとノンキャリアの出世速度はずいぶん異なるのか?

わが国の子どもたちの学力低下は文部科学省のせいなのか?

今後の日本では科学技術の発展が期待できるのか?

『文部科学省』は、同省に関するさまざまな謎や疑問の解明を試みた意欲作でした。

一冊だけで文部科学省および関連領域の実像・歴史・将来を把握できます。

著者(1973年生まれ)の語り口は客観的。

文科省は批判されやすいが、意外にも社会からの期待への対応ではまずまずの能力を発揮している。政治家、有識者、マスコミ、利益団体があれこれ文句を言うのを最大公約数に落とし込み、正解とはいえなくとも、少なくとも利害関係者が揃って納得できる「納得解」にもっていくスキルは見事なものである。(pp.168)

教育政策をめぐる構図が変わるなかで、文科省が果たすべき役割は何だったか。それは政策実施を見据えた制度設計を行うことだったはずであるが、残念ながら文科省はその期待に応えることができず、拙さが目立った。これは担当者や担当組織の問題ではなく文科省全体、教育政策全体の構造的な問題である。(pp.222)

引用文のように、認めるべき点は認め、批判すべき点は批判なさいました。

偏りがないと思われる解説書です。

読後感をふたつ書くと、まず、

2016年の文科省調査によって、全国の多くの小中学校教員の残業時間が「過労死ライン」を超える実態が明らかになり、「学校の働き方改革」が待ったなしの政策課題となった。(pp.177)

わたしは長らくスクールカウンセラーとして勤めていたため、学校の先生がたのお忙しさをたびたび目の当たりにしました。

この深刻な問題の打開策である「『部活動指導員』の新設(pp.178)」「公立学校教員の勤務時間管理(pp.181)」などは心から評価いたしますが、学校における事務職員の数を増やし教員たちの業務負担を軽減させる取り組みも必要だろうと考えます。

つぎに、

日本だけは博士号取得者が減少してしまった。(中略)大学院教育を受ける人数が少なければ、社会で活躍する修了者はその分少なくなる。(pp.249)

学界にて憂慮されている現象であり、手を打たなければ国力の衰退を招きかねないと案じても、そう的外れではないでしょう。

「大学・短大では教員の性別割合をほぼ男女50パーセントずつとしなければならない」なる規則を定めることで、優秀な女性たちが昨今よりは多く大学院へ進みだし、いくぶん博士号取得状況が向上すると予想されます。

青木氏は「あとがき」の後半で、

文科省を正面から扱う本書のような書籍を、研究者、しかも国立大学に籍を置く教育行政学の研究者が出版するのは、これまでなかったことである。本書の草稿段階ではどこか遠慮した書きぶりが目立った。(pp.279)

と述懐し、にもかかわらず「ある種の覚悟(pp.279)」のもと「3年近く(pp.280)」かけて執筆を完了なさいました。

氏の覚悟を多といたします。

金原俊輔

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