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『高校生ワーキングプア:「見えない貧困」の真実』、NHKスペシャル取材班著、新潮文庫、2020年。

わが国の子どもたちにおよんでいる深刻な貧しさ。

2020年7月の厚生労働省発表によれば、2018年(平成30年)の低年齢層の貧困率は13.5パーセント、つまり、おおむね7人中1人が経済的に困窮していた由です。

近年の「OECD」や「ユニセフ」の報告でも、日本の子どもの貧困率が先進国のなかで「ワースト10」に入っている、と指摘されました。

こうした事実を受け、上掲書は働きつつ学校へ通う高校生たちの厳しい実態をレポートしました。

卒業式を終えた優子さんは、日中の時間帯も含めて、連日10時間以上のアルバイトを続けていた。バイト先の店長に頼み込んで、できる限り多くの時間、働けるようにシフトを組んでもらったのだ。3月下旬、バイト先に優子さんを訪ねた。優子さんは、居酒屋の厨房の奥で山のような食器を洗っていた。(中略)
休憩時間に優子さんの姿を探すと、居酒屋が入っているビルの踊り場で一人、参考書と向き合っていた。(pp.56)

飲食店とコンビニのアルバイトを掛け持ちしている絵里香さんの仕事終わりは、遅い日だと午後10時過ぎになる。密着ロケの最後、ようやく帰路についた絵里香さんに、どうしてこんなに働くのか、聞いてみた。
「お母さんのため」
すぐに、その言葉が返ってきた。親を思う気持ちの強さに圧倒された。そして、彼女はこう続けた。
「自分の生活費を自分で稼げば、お母さんが楽になるから」(pp.131)

痛々しく、また心から頭が下がる、懸命な若者たちが登場しました。

副題にある「見えない貧困」とは?

本書を執筆なさった「NHKスペシャル取材班」の見聞は、こうでした。

インターネットカフェに住み続けていた姉妹は、住居がネットカフェと聞かなければ、外見からはとても貧困とは思えなかった。着ているものは今どきの若者と何ら変わらず、メイクも、つけまつげもしていた。彼女たち曰(いわ)く「百均(100円ショップ)に行けば、つけまセットも100円、リップも100円。服も古着をネットオークションで買えばいい」と話していた。(pp.4)

取材班ばかりではなく、日々、生徒たちに接している高等学校教師ですら、

「当時は、私もあまり分からないままに担当していたんですけど、あのころ奨学金を借りたいという生徒が急増したんですね。提出されてくる書類をチェックするのが大変でした。それで、1枚1枚見ていくと、お父さんがリストラされたとか、お母さんが病気療養しているとか、シングルマザーで低所得で苦しんでいるといったことが、書類を通して見えてくるんです」(pp.71)

きっかけがあって、ようやく察知することができたのです。

胸を締めつけられます。

みんな必死の「自助」をおこなっているので、これより先は「共助」「公助」の出番となるでしょう。

そこで取材班は奨学金・国の教育ローンに目を向け調べています。

いたらぬ点が少なくない仕組みであるいっぽう、魚の「ぶり」1尾が売れたら1円を貯め、貯まったお金を奨学金にする、奨学金を利用した人には学業修了後に町へUターンしてもらう、という鹿児島県長島町「ぶり奨学金(pp.147)」制度は、特筆すべき名案でした。

若手を支援するに止(とど)まらず、町おこしにもつながり得ます。

ところで、この『高校生ワーキングプア』は文庫本なのですが、元になる単行本の刊行は2018年だったそうです。

であるため、語られたのは「新型コロナウイルス禍」よりも前の日本社会。

コロナ禍の渦中にある2020年現在の子どもたちが置かれた状況は一層悪化していると想定されます。

何とかしなければならない……。

とりあえず、個人的に念ずるのは「返済不要の給付型奨学金」拡充で、左記は個人や法人の寄付によって果たさなければならないと考えます。

アメリカ合衆国に住んでいたころ、わたしが所属したふたつの大学院には多額の寄付金が集まっていました(当方は外国人だったため利用できませんでしたが)。

そんな美風に影響を受け、日本へ帰国以降、自分自身も似たおこないをするようになっています。

周囲で同様の行為を継続実践しているのは高校時代の友人ただひとり。

日本人に、ごく当たり前に寄付をする習慣をもうちょっと身につけてほしい、と願っております。

金原俊輔

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