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『世論調査の真実』、鈴木督久 著、日経プレミアシリーズ、2021年。

鈴木氏(1957年生まれ)は、日本経済新聞社グループの調査会社「日経リサーチ」のフェロー。

世論調査を担当しておられ、この著作『世論調査の真実』は、

日経に限定せずに日本の世論調査を対象として、書籍化を企画したのが本書です。(中略)

読みやすいように引用や注を省きましたが、多くの先行研究を参考にしています。図表もできるだけ収録せずに、本文だけで理解できるように心がけました。(pp.229)

まさしく「心がけ」どおりの読物でした。

良書であり、書かれている内容の新味さ、レベルの高度さ、が際立っています。

まず、新味さから、ご紹介しましょう。

わたしは大学・大学院の講義で世論調査を語ってはいたものの、メディアがおこなう世論調査について具体的な知識を全然もっていませんでした。

そんな当方が上掲書で得た新たな情報は、たとえば、

マスコミの世論調査担当者たちは、結果の数値が独り歩きすることを承知しているので、正しい調査を常に心がけています。「有権者の何割がこう考えている」というように使われて問題ない調査をすることを使命だと自覚しています。(pp.45)

プロフェッショナルな使命感で、敬服いたします。

ほかに、

各社は質問文を複数の関係者によって議論して作りますが、新しく出現した事態や流動的テーマの場合は観点が多様化します。また、経済問題は各社の違いが比較的少なく、外交・安全保障問題では違いが顕著となりがちです。(pp.112)

こういう傾向、いわれてみると思い当たるところがあります。

第3章「誰に、何を、どう尋ねるのか:世論調査の現場」も、深いお話でした。

同章では、調査のため電話をかけるオペレーターたちに集合してもらい、皆さまに研修をおこなう場面から、著者の説明が始まります。

最後に調査結果を分析・考察するまで、すごい時間と労力が注入されている様子が描写されました。

つづいて、本書のレベルの高さに関していえば、それこそ全編が高レベルなのですが、

新聞社による選挙前の情勢調査と、テレビ局による出口調査は、しばしば選挙予測調査として混同されますが、本質的に異なります。情勢調査は投票前の「未来の予測」ですが、出口調査は投票後の「過去の推測」です。ちなみに世論調査は「現在の推測」です。(pp.70)

こうした専門的な話題や、

調査票は世論調査にとっては民意の測定装置です。体重や脳波などの物理的測定装置と同じです。繰り返し強調しますが、意見や態度の測定は「ことば」を通じて測定します。質問文によって結果が変わるので、質問=調査票の設計は想像以上に重要です。
質問文は「測定刺激」、その結果として得る回答を「反応」といいます。刺激を変えると反応が変わります。(pp.107)

学習心理学が重視している「刺激-反応」理論を彷彿(ほうふつ)させる一節も記述されていました。

第4章「世論調査の起源」にいたっては、すべての社会科学者が知っておくべきほどの内容です。

もっと早く『世論調査~』を読んでいたら、わたしは充実した講義をおこなえ、受講生たちを喜ばせることができただろう、と悔やみました。

金原俊輔

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