最近読んだ本482:『強迫症を治す:不安とこだわりからの解放』、亀井士郎、松永寿人 共著、幻冬舎新書、2021年

上掲書は精神科医2名が共同執筆されたものです。

そのうちのおひとり亀井氏は強迫症の患者として辛いご経験をなさいました。

当事者ならではの具体例がたくさん記述されている、身につまされた作品です。

わたしが「身につまされた」と書いたのは、自分自身、強迫症のもちぬしであるためで、そうした事実も影響し多大な興味のもと本書を読みすすみました。

強迫症とは、

「強迫観念」と「強迫行為」の2つの症状で特徴づけられる疾患概念です。(pp.32)

強迫観念は「思考面での症状です。頭から離れない不安な考えやイメージのことで、それを無視しようとしたり、打ち消そうとしたりしても、何度も頭に反復(pp.32)」してきます。

強迫行為は「『カギや火元を確認する』『不吉を打ち消す儀式を行う』『完全に綺麗になったと思えるまで洗浄する』(pp.33)」といった行為で「過剰でバカバカしいと思っても、行動せずにはいられません(pp.33)」。

さて、亀井氏は初めのうち、ご自分の病気が何なのか思い当たらなかったそうです。

「なんだか最近は異常に不安になることが多いぞ、いや実際異常なのではないか」という自覚はあったものの、疾患名を当てはめるには至りませんでした。そんな折です。ガスの元栓を汗だくになって何十回も捻っている最中に「いや、これ強迫症やんけ」と自分でツッこむことになったわけです(実際、ズルズルと壁際にへたりこんで、こう呟きました)。(pp.161)

わたしにも多少似たできごとが。

和光大学へ入学し、臨床心理学の講義受講中に強迫神経症(往時はそういう名称でした)が語られた際、「いや、俺(おい)は強迫神経症たい( ← 長崎弁)」と気づいたのです。

発症年齢は、平均して20歳前後です。(中略)
児童期から発症する例も多く、特に男性の場合は、その4分の1が10歳より前から発症するとされます。(pp.31)

わたしの場合「児童期から発症」組です……。

本書の主張は明確でした。

強迫症には薬と行動療法・認知行動療法とを組み合わせた治療が最も有効だという主張です。

「薬物療法と認知行動療法(CBT)が標準的な治療法であり、それぞれ単独でも効果はあるが、合わせればもっと効果が出る」と。(中略)
全くもって正しいと言えます。(pp.96)

薬物療法とは主に「不安」を和らげるための手段であり、根本的な治療を目指すためのサポートの役割だと捉えなければいけません。極端な話、CBTを適切に実践できるのならば、薬物は不要なのです。(pp.100)

フロイトに端を発する精神分析的アプローチは限界が明らかになった一方で、薬物や行動療法の有効性が注目されました。(pp.251)

当コラムでは、以降(認知行動療法の語を省略し)行動療法とだけ表記しますが、3つの引用はどれも行動療法家であるわたしには納得できる、そして嬉しい、文章でした。

医師でいらっしゃる著者が率直に薬物療法より行動療法のほうを高く評価なさっている点に頭が下がります。

行動療法のどんな技法が効果をしめすのか、書中かなりのページを割き、くわしく語ってくださいました。

強迫症に苦しむかたがたはぜひ読むべき書物です。

ひとつだけ疑問を述べますと、強迫症への対応手段として、行動療法が西の横綱であるとき、東の横綱は日本の森田療法です。

なのに、森田療法の話がまったく登場しなかったのは、意外でした。

まあ、その件はさておき、わたしは青年時代から現在まで、強迫症をあつかった書籍を断続的に読んできました。

このコラムでも、

『ぼくは強迫性障害』、筒美遼次郎 著、彩図社(2016年)「最近読んだ本36」

を評したことがあります。

今回の『強迫症を治す』は、行動療法の強迫症への応用が主題でした。

ですので、当該領域で参考になった専門書5冊を、ランキング形式にして提示させていただきます。

それらは、

第1位 『手を洗うのが止められない:強迫性障害』、ジュディス・ラパポート 著、晶文社(1996年)

第2位 『強迫性障害を自宅で治そう! 行動療法専門医がすすめる、自分で治せる「3週間集中プログラム」』、エドナ・B・フォア、リード・ウィルソン 共著、VOICE(2002年)

第3位 『強迫性障害からの脱出』、リー・ベアー 著、晶文社(2000年)

第4位 『強迫性障害の行動療法』、飯倉康郎 編著、金剛出版(2005年)

第5位 『不安でたまらない人たちへ:やっかいで病的な癖を治す』、ジェフリー・M・シュウォーツ 著、草思社(1998年)

以上です。

『強迫症を治す』の著者・亀井氏は「はじめに」で自著を紹介されたのち、

この本は、私が強迫症を発症した7年前に「この世に存在して欲しかった本」なのです。(pp.13)

かく発言していらっしゃいますが、この世には上の5冊を含め多数の本が存在していますよ。

金原俊輔