最近読んだ本476:『アメリカ人の4人に1人はトランプが大統領だと信じている』、町山智浩 著、文藝春秋、2021年

アメリカ合衆国各地に住まわれ、アメリカ社会の動静に精通されている著者(1962年生まれ)がお書きになった、最新の現地報告です。

2020年8月の大統領選へ立候補したドナルド・トランプ氏の様子から、同年11月における氏の落選、落選後2021年1月に起こったトランプ支持者らによる連邦議会議事堂への乱入事件、同年6月アリゾナ州での大統領選挙投票用紙監査、約1年間の政治状況がつぶさに語られました。

2021年現在のアメリカには、

ロイターが発表した世論調査によると、アメリカ人の25%が大統領選挙には不正があったと信じています。何の不正も発見されていないにもかかわらず、4人に1人がトランプが勝利者だと考えているわけです。(pp.4)

こうしたマグマがたまっている由です……。

さて、本書で紹介されるエピソードはどれも興味深く、そして筆致が軽妙でした。

わたしは堪能しました。

例をしめしましょう。

2020年9月、選挙戦のさなか、トランプ大統領とジョー・バイデン候補が相対する最初の討論会がひらかれました。

討論会は、ののしり合いの様相を呈し、とくにトランプ氏が幾度もバイデン氏の発言を封じる態度をとったため、

さすがに司会が「2分間は邪魔せずに互いの言い分を聞くという約束ですよ。いいですね?」と注意するとトランプは「だって……」と言い訳しようとして司会に「理由を聞いたんじゃありません!」と叱られた。小学生か!(pp.68)

上記は日本でもニュースになりました。

この討論会を見たルーク・スカイウォーカーことマーク・ハミルは「最悪のものを観た。自分が出た『スター・ウォーズ』クリスマス特番以来だ」とツイート。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のお母さん役リー・トンプソンも「最悪。アヒルの恋人役やって以来」。ああ、『ハワード・ザ・ダック』思い出しちゃったよ!(pp.69)

古い作品なのですが、わたしは

映画『ハワード・ザ・ダック:暗黒魔王の陰謀』(ウィラード・ハイク監督、1986年)

を観たので、なつかしく、微笑を誘われました。

トランプ氏が入りこんでいる話題ですから「微苦笑」の表現が妥当かもしれません。

ところで、本書をとおして、私的な疑問が氷解しました。

119ページ「トランプのマスコットに無理やりされたかわいそうなカエル」章がきっかけです。

サンフランシスコに住むマット・フューリー(1979年生まれ)は中古おもちゃ屋で働きながらマンガ同人誌を作った。カエルのペペというキャラクターと友人の何でもない日常を描いたマンガで、ペペの口癖は「Feels good man(気分いいよ)」。(中略)
ところが、マットがペペの絵をSNSに載せてから、ペペは作者の手を離れて独り歩きを始めた。誰かがそれを「4チャン」に転載した。4チャンは日本の「2ちゃんねる」に影響されて作られた匿名掲示板で、ペペはたちまちミームとなって広がった。ミームとは、ネットでウイルスのように拡散していく絵や写真。(pp.120)

そうでしたか。

ご説明します。

数年前、わたしは「ラグビーワールドカップ2019日本大会」が開催されていた期間に、英語圏で発されたSNS投稿を毎日せっせと読んでいました。

日本代表チームの快進撃が海外でどう賞賛されているかを知りたかったからです。

やがて、SNS上に変なカエルの画像がしょっちゅう登場する事実に気づきました。

カエルは顔つきや肌の色やしぐさがあれこれ加工されていて、涙ぐんだり、怒ったり、恥じたり、薄ら笑いを浮かべていたり、得意げな表情になったり、していました。

わたしにはそれがいったい何なのか、わかりませんでした。

そのカエルこそ「ペペ」。

まさしく世界的ミームとなっている模様です。

しかし、どこかのだれかが「トランプの顔をペペに加工した絵(pp.122)」を描き、「トランプの選挙アドバイザーはそれを宣伝に利用(pp.122)」した結果、マット・フューリー氏が作った「ペペTシャツは売れなくなってしまった(pp.122)」由でした。

なるほど……。

とうのむかしにアメリカ留学を終え、インターネットを知悉してもいないわたしは、『アメリカ人の4人に1人は~』みたいな本を読んで、すこしでも最新の情報を仕入れておかなければならない、と痛感した次第です。

金原俊輔