最近読んだ本658:『審判はつらいよ』、鵜飼克郎 著、小学館新書、2024年
ユニークな切り口の作品です。
本書の各章はサッカー、プロ野球、アマチュア野球、柔道、ボクシング、飛び込み(水泳)、ゴルフ、大相撲の審判員のインタビューで構成されている。(P. 4)
彼ら・彼女らは「競技への熱い思い、審判員としての自覚(P. 253)」ばかりではなく、あまり世間に認知されていない裏話も多々語ってくださいました。
とても興味深かったです。
たとえば、日当などに関する件。
アマチュア野球の場合、
高校野球の審判員はボランティアで、数千円程度の日当が支給されるが、球審も塁審も同額だ。それとは別に交通費が支払われ、弁当も支給される。(P. 97)
水泳の飛び込みだと、
全国大会では旅費や宿泊費は出ますが、日当はありません。ローカル大会は交通費も出ない完全ボランティア。出るのはお弁当くらい。(P. 169)
登場するほとんどのかたがこうした境遇に甘んじていらっしゃり、そのため皆さまは審判業以外の何らかのお仕事をおもちでした。
つぎに、判定の正確性にからむ逸話を引用します。
サッカーでは、
ピッチ上で(中略)得点やファウルのジャッジに対して、何人もの選手が主審に詰め寄るシーンは珍しくない。審判がなだめたり、「それ以上抗議するとカードを出す」と注意したりする場面も見かける。(P. 23)
難しい判定であれば何千人、何万人からブーイングを浴びる。(P. 43)
プロ野球の橘髙淳アンパイア(1962年生まれ)は、1998年7月に、
選手から「球史に残る抗議」を食らった経験がある。(中略)橘髙のストライク・ボール判定にたびたび不服そうな表情を見せていた巨人の先発・ガルベスは(中略)手にしていたボールを巨人ベンチに背を向けていた橘髙に投げつけたのだ。(P. 71)
プロ野球における別のエピソード。
ロッテ・佐々木朗希投手(2001年生まれ)の、
外角ストレートがボール判定となった後、佐々木は少し苦笑いを浮かべてマウンドからホームベースに数歩近寄った。これを「判定への不服」と受け止めた白井球審はマスクを外し、険しい表情を浮かべてマウンドに歩みを進める。(P. 248)
ゴルフでは、ぺ・ソンウ選手(1994年、韓国生まれ)の「ホールインワン未遂事件」という騒ぎがあったそうで、
普段は穏やかでルールもよく理解しているプレーヤーですが、これに関しては「判定に納得できない」という様子でした。(P. 212)
どの審判員も選手や観客たちとの軋轢(あつれき)が絶えない模様です。
さぞや、おきついでしょう。
おひとりおひとりのご心労が偲ばれますし、皆さまがそれでも審判の役目を担いつづけてきておられることに対し敬意を表します。
ところで、本書を読みながら、ラグビー出身のわたしは「ある傾向をこの書評で書きたい、だけど書かないほうが謙虚かも……」と懊悩していました。
すると、ボクシングの元・日本ミドル級王者および日本ジュニアミドル級王者で、現在はJBC(日本ボクシングコミッション)でレフェリーをなさっているビニー・マーチン氏(1962年、ガーナ生まれ)が、ズバリ。
彼は、著者(1957年生まれ)に「他の競技でやってみたい審判は?(P. 163)」と問われ、
ラグビーだね。自分は若い頃にプロサッカープレイヤーを目指したけど、サッカーは選手のアピールが凄いんだ(苦笑)。何十分も広いフィールドを走り回る大変さはサッカーもラグビーも似ているけれど、ラグビー選手たちは常に紳士的でレフェリーのジャッジを尊重する。ラグビーはとりわけ審判をリスペクトするスポーツだと思う。(P. 163)
こう回答なさいました。
その通り!
当方に代わって他スポーツへジャブをお放ちくださった(往年のボクサーだけに)マーチン氏に感謝いたします。
金原俊輔