『スマホ廃人』、石川結貴著、文春新書、2017年。

スマートフォンが普及しています。

普及の結果、無数の若者たちがスマホに没頭しているわけですが、望ましくない余波はそればかりではありません。

母親が育児をしながら(子どもそっちのけで)スマホに見入る、高齢者がスマホに嵌って高額の借金を背負ったり周囲の信用をなくしたりしている、会社員が会社のスマホで勤務状況を管理されている、といった他のマイナスな事象も生じてきました。

『スマホ廃人』は、そのような現状を憂慮した本です。

石川氏は女性ジャーナリストで、これまで家族関係や教育問題の書籍を出版されてきたそうです。

だからなのか、

米アップル社を創業したスティーブ・ジョブズが、自分の子どもにiPhoneやiPadを使わせなかったのは有名な話だ。IT業界において「天才」と称された彼だが、親としてはアナログを貫き、子どもたちの利用を厳しく制限すべきと語っていたという。(pp.42)

こうした話題が熱く語られています。

上掲書では、どんなメカニズムで「スマホ依存」が起こるのかに関してもくわしい解説がなされていました。

この「どんなメカニズムでスマホ依存が起こるのか」を知るために、著者は東京大学大学院学際情報学府博士課程の堀川裕介氏にインタビューしました。

すこし長くなりますが、

ツイッターやLINEなどのSNS、ニュースサイトに掲載されている各種の情報も同様だ。たくさんの書き込み、コメント、ニュースのほとんどは緊急性も必要性もさほどない。適当に読み流せばいいレベルだが、それらの中に突然興味深い情報を見つけたりする。(中略)
堀川氏は「たまに当たりが出る、その期待があるから、ネットやスマホをやめにくくなる」と言う。「ネット依存の背景として考えられるのが、オペラント条件付けです。これは、ある刺激のもとである行動をすると報酬、もしくは罰が与えられるというものです。自分の行動、たとえばゲームをすることによってレアアイテムという名の報酬が得られれば、みずから進んでその行動を取るようになります。しかも、行動するたびに報酬が与えられるとは限らないという偶然性があったほうが、行動そのものがエスカレートしていくと言われているのです」
今回ははずれても次回は当たるかもしれない、いつも当たっていたわけではないから、今は無駄でもつづけていればいいことがあるだろう、そんな期待が私たちを駆り立てる。(pp.132)

オペラント条件づけ、そして部分強化のことを、正しく述べておられます。

別のページでは、アメリカの心理学者B・F・スキナーがエサを用いてネズミにスイッチを押させる行動を調べた研究に触れ、

これは「部分強化」と呼ばれるもので、「部分」が「たまに出る」こと、「強化」は「エサが出る」ことを指す。ネズミは「もともとたまにしかエサが出なかったわけだから、今は出なくても次には出るだろう」と期待し、行動しつづける。
「スキナーの箱実験」のネズミを、ソシャゲにのめり込むプレイヤーに置き換えると、「強化」がレアアイテムやボーナスポイント、仲間からの称賛といった報酬になるだろう。
「もう少しつづければ大当たりが出るに違いない」、「ここで中断したら今までの課金が無駄になる」、そんな心理に陥り、ゲームから離れにくくなってしまう。(pp.134)

著者はスマホ依存やゲーム依存をこう見ました。

惜しい!

最初に出てくる強化の語は「エサが出る」ことではなく、スイッチ押し行動をつづけることを意味します。
つぎに登場する強化は、レアアイテムなどを指しているのならば「強化刺激」あるいは「強化子」と書かなければなりませんでした。

それにしても著者はわが師スキナーの実験についてかなり理解し、うまく解説に使っていらっしゃいます。
きっと聡明なかたなのでしょう。

さて、わたし自身も「スマホ依存はオペラント条件づけの結果である」と考えています。

スマホの多彩な機能やアプリにより、人のスマホ使用行動がつづいてしまっているのです。

売り手は、スマホ本体に多彩な機能をもたせ、さらに多種多様なアプリの開発を進めることで、消費者のスマホ使用行動を強化するオペラント条件づけを企図している、ともいえます。

それで誰もが止められなくなってしまうわけです。

いっぽう、オペラント条件づけの知識は、スマホ依存を改善するためにも必須となります。

今後スマホを真ん中にして、売ろうとする側、常用を控えさせようとする側、オペラント条件づけを専門とする行動心理学者同士の戦いがおこなわれてゆくことになるかもしれません。

金原俊輔