『なぜ名経営者は石田梅岩に学ぶのか?』、森田健司著、ディスカヴァー携書、2019年。

かなりむかし、何かの本のなかで石田梅岩(1685~1744)がくわしく紹介されており、わたしは読みながら「すごい人がいたものだ」と感嘆しました。

石田は「石門心学(せきもん・しんがく)」と呼ばれる思想を唱えた、江戸時代の学者です。

心学とは「生きかたの手引き」みたいな実学で、心理学と名称は似ていますが、中身は異なります。

先日、上掲書の題名でひさしぶりに石田の名を見かけたため、なつかしくなって購入しました。

わたしは零細企業の経営者ですから、「ヒントになる話題が含まれているかもしれない」との期待もありました。

122ページの「『二重の利』を取るな」は説得力がある考えかたでした。

149ページの「倹約で人間関係もよくなる」も大事な指摘と思います。

157ページ、「本当の倹約はただの節約ではない」、なるほどと納得させられました。

良かったのは、これくらい……。

わたしにとって、本書の内容はそれほど経営の参考になりませんでした。

天には理があり、それは大原則とでも表現できるものです。一方、人間の本性にも理があり、何らかの努力の結果、自身の心を本性に「戻す」ことができれば、自分の心と天は同じ理を備えることになるわけです。梅岩のこの説にのっとれば、天の理に合う感情や行為は、「より自然なもの」と考えることができるはずでしょう。それらが、人間本来のものだからです。(pp.94)

むずかしい文章ではないものの、少々意味がくみ取りづらいです。

夏目漱石(1867~1916)の「則天去私」のような感じでしょうか。

全般、引用文のような調子で話が終始し、石門心学の主張を目先の経営に結びつけるのは困難でした。

わたしが経営の素人であるため、本書が提供してくれた情報を活かす力を有していないだけのことなのかもしれませんが。

いっぽう、著者(1974年生まれ)には好感をもちました。

石田について深く調べられており、彼への傾倒が伝わってきますし、石田の存在をアダム・スミス(1723~1790)やピーター・ドラッカー(1909~2005)と同列に位置づけんとするご努力にも賛同いたします。

ところで、書内でわたしがいちばん驚いた記述は、あの「黒船」のマシュー・ペリー提督(1794~1858)による文章。

ペリーは、日本の未来を、

他の国民の物質的進歩の成果を学ぼうとする好奇心、それを自らの用途に適用する心がまえによって、日本人はまもなく最も恵まれた国々の水準に達するだろう。ひとたび文明世界の過去および現代の知識を習得したならば、日本人は将来の機械技術上の成功をめざす競争において、強力な相手になるだろう。(pp.32)

と予言したそうです。

予言どおりになりました。

よほど先見の明がある人物だったのでしょう。

ペリーを以上のように唸(うな)らせた当時の日本人たちは、大なり小なり石門心学の影響を受けていた、と想像されます。

つまり、石田梅岩は江戸期そして明治以降のわが国の発展に大きく貢献した思想家である、こういえるわけです。

金原俊輔