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『搾取される研究者たち:産学共同研究の失敗学』、山田剛志著、光文社新書、2020年。

日本政府が文部科学省を中心に推進している「産学連携」および「産学共同研究」。

大事な動きであるとは思います。

しかし、実態は……?

上掲書は、連携や共同研究の美名のもと、現場の研究者たちが企業側から酷使され搾取されている窮状を明らかにした作品でした。

著者は弁護士・大学教授でいらっしゃり、本書では研究者の立場に立たれてご意見を開陳なさっています。

結論と考えられるのは、

日本でも、大学研究者が企業と共同研究をするときは、本来、ビジネスベースで、契約書に全て記載することが、今後不可欠になるだろう。
共同研究は、関係者全員が無償で行うことに同意している場合を除き、関係する人全員と契約内容を具体的に書いて、お互いにメリットがあるような契約にする。現状は、一方的に大学側、特に若手の研究者が割を食うシステムになっている。「搾取」どころか、若手研究者が潰れてしまう。(pp.120)

ごもっともなのですが、それにしても21世紀の今、こういう旧態依然とした状況が産学界で大手を振って跋扈(ばっこ)している事実に驚きを禁じ得ません。

わたしの場合、大学教員時代に産学共同研究をおこなったことがなく、お誘いすらなかったので、全然知りませんでした。

つづいて、耳目を引く機会が多い「大学発ベンチャー企業」に関し、

実際には、先に挙げた(1)「大学で達成された研究成果に基づく特許や、新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー企業」で上場している企業は非常に少ない。実際には、おそらく数社と思われる。(pp.169)

おまけに、大学発ベンチャー企業には「ほとんど製品の売上がない会社があった(実体がない会社も)。(pp.11)」なのだそうです。

参考になりました。

読了後の感想はふたつです。

まず、『搾取される研究者たち』の主題とは無関係ながら、わたしは本書を読みつつ「日本学術会議」の声明を想起しました。

同会議が2017年「軍事的安全保障研究に関する声明」にて戦争・軍事目的の研究をおこなわない姿勢を継承すると述べた件です。

わたしは当該声明に批判的で、研究者が(一定の手続きのもと)なにを研究しようが自身の自己裁量の範囲内であり、ましてや祖国の平和を守らんがための研究は感謝・賞賛されてしかるべきであって、非難される筋合いはない、(一定の手続きに基づく)手かせ足かせをかけておけば危険性対策も十分、と少考いたします。

2020年12月に約6年間の活動を終え地球へ帰還した小惑星探査機「はやぶさ 2」製造の技術とて軍事への転用が可能なはずなのですが、日本学術会議の諸賢はどう受け止めているのでしょう。

ふたつ目に、本書が言及した話柄はあまりに領域が絞りこまれており、ほとんどの読者にとって縁がないトピックだったのではないか、その結果、書籍が売れないのではないか、と心配しました。

だからこそ著者は(賛成・反対どちらであるにしても)上記日本学術会議のことなども含めてお話を展開なされば良かったのに、と感じます。

金原俊輔

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