最近読んだ本84

『自閉症の世界:多様性に満ちた内面の真実』、スティーブ・シルバーマン著、ブルーバックス、2017年。

自閉症という発達障害があります。

これに、最近まで「カナー症候群」「アスペルガー症候群」と表現されていた症状もあわせて、障害の名称は「自閉症スペクトラム障害」に変わりました。

「自閉症および自閉症に連なる近接の諸症状」を意味しています。

本書は、自閉症スペクトラムを有するかたがた、そのご家族、そして研究者や治療者たちの、さまざまな挑戦・取り組みを紹介した学術書です。

全631ページ。
分厚い本で、それだけに情報量が豊富でした。

わたしは臨床心理学者という仕事がら、カナー、アスペルガー、ロヴァス、サックスなど、知名度が高い専門家たちのことを知ってはいたものの、彼らの人間性に関する知識まではもっていませんでした。

『自閉症の世界』のおかげで、彼らがどのような人々だったのか、じゅうぶん把握することができました。

また、上掲書を読んでいると、テンプル・グランディンやドナ・ウィリアムズといった、著名な自閉症当事者たちも登場してきます。

それどころか、自閉症者をテーマにした映画『レインマン』で主役を演じたダスティン・ホフマンのエピソードについても、かなりくわしい描写がなされていました。

要するに、この本は、自閉症スペクトラムにまつわる重要事項・重要人物を完全に網羅しようとした一冊でした。

名著といえます。

ただ、不思議だったのは、自閉症スペクトラムへの援助策として行動療法(本書では「行動分析」あるいは「ABA」の表記がなされています)と同じく有効な「TEACCHプログラム」のことが、ほとんど言及されていなかった点です。

371ページにチラッと出てきた程度でした。

原文がそうであったのか、それとも翻訳の際に省略されてしまったのか、わたしには分りませんが、同症の皆様を支援するにあたって最も大事な情報のひとつのはずです。

これほどまでに全領域を語ろうとした本だったのに……。

残念ながら「画竜点睛を欠いている」と感じました。

金原俊輔

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