最近読んだ本312

『台湾が独立する日:日台米中問題の核心』、田代正廣著、彩図社、2019年。

台湾の約500年の歴史を俯瞰したうえで、台湾のかたがたへのインタビューも交えつつ、今後の台湾が進むべき道を考察した本です。

わたしは大の台湾好きであるため、すでにたくさんの書籍を読み、知っていた事項が多く記されていたのですが、当然ながら知らなかった情報にも遭遇しました。

たとえば、2018年、

アメリカは6月12日、台北にあるAIT(在台湾アメリカ協会=事実上の米国大使館に相当する)事務所の移転式典を行い、これを機会に、新事務所の警護のために米海兵隊員を台北に駐在させることを発表した。(中略)
注目しなければならないことは、この日に東京で、安倍晋三首相が「親中路線」を見直したマレーシアのマハティール・モハマド首相と会談したことだ。これは偶然だったのだろうか?(pp.129)

田代氏(1942年生まれ)は偶然とお考えにはならず、「台湾やマレーシアへの関与を強め、世界の覇権を狙う中国と対峙する『日米の意思表示』だったのではないか(pp.130)」、こう見ておられます。

もし本当に、そんな由々しい趨向(すうこう)に安倍政権が関わっている場合、国民のひとりとして嬉しいかぎりです。

氏は、別のページでも個人的な想像をお書きになっており、

安倍首相は、2016年末に、オーストラリアやフィリピンを訪問している。日本はこれらの国々と安全保障や経済関係を強化していこうとしている。この中に台湾を組み入れようとしているのではないか。(pp.174)

しかし、2020年、フィリピンは中国接近の姿勢を示しだしました。

日本は引用内の動きをするよりも、台湾を早く「TPP」に迎え入れることのほうが、よほど現実的なサポートになるでしょう。

つぎに、台湾を(「チャイニーズ・タイペイ」などではなく)台湾と呼ぶ「台湾正名運動」というものがあり、わたしも賛同しています。

わが国では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおいて、この正名を用いようとする草の根の活動がおこなわれてきました。

台湾選手は1956年のメルボルン五輪では「フォルモサ」の名で、60年のローマ五輪と64年の東京五輪、68年のメキシコシティー五輪では「タイワン」の名で参加している。(pp.158)

記憶にありませんでした……。

簡単ではないでしょうけれど、日本主催オリ・パラは台湾を台湾の名称で受け入れ、かの国の代表選手たちを応援したいものです。

以上、巧みな佳篇でした。

副題の4カ国の思惑が複雑に錯綜する難しい状況が活写されています。

『台湾が独立する日』が有する唯一の弱点は、インタビューした人たちが6名と、あまりに少人数であること。

上記程度の数でしたら、書中、台湾人の総意を代表する意見が述べられている、とは言えません(ただし、セデック族のかたをインタビュー相手に含んだのは、すばらしかったと評価いたします)。

本書に加え、

近藤伸二著『米中台 現代三国志』、勉誠出版(2017年)

も読めば、奥深い台湾理解につながり、良いのではないかと思われました。

金原俊輔

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