最近読んだ本364
『アジア燃ゆ』、近藤大介著、MdN新書、2020年。
2020年におけるアジア圏の各国・各地域を俯瞰したレポートです。
中国、香港、マカオ、台湾、北朝鮮、などが語られました。
うち、北朝鮮編は、2002年および2004年、近藤氏(1965年生まれ)が記者として日本の小泉純一郎首相訪朝に同行した際の古い記録です。
古かったですけれども結構おもしろく、北朝鮮の貧しさや人々の素朴さ、したたかさ、外国人慣れしていないさまが、精細に描写されていました。
夜、氏は街の食堂で、
小石のような「牛肉」を、お小水のようなビールとメチルアルコールのような焼酎で無理やり胃に流していると、とたんに胃痙攣(けいれん)が起きた。そもそも真っ暗闇なので、自分が何を食べているのかも不明だ。(pp.287)
「ような」のたとえ、食後のオチ、どちらもが悲惨すぎます(笑)。
中国に関して、著者は、ジャーナリストの冷徹な視線が弱まったかのごとく、ぬるめの文章をお書きになりました。
いっぽう、香港。
取材の一環として「反・中国」デモに賛同しない市民たちの声を拾っておられます。
大事であるかもしれない半面、香港デモ隊を応援するわたしにとっては重要度が低い情報でした。
香港のあとは、マカオ。
マカオには現在、計41カ所のカジノがあって、税収の85%を叩き出している。(pp.117)
と紹介しつつも、
いま日本が取り入れようとしているIR(統合型リゾート)も、時代に合っていない。私に言わせれば、カジノという遊び方自体が、20世紀の産物である。いまの若者が遊ぶのはスマホゲームであり、カジノゲームではない。日本でパチンコが廃(すた)れていっているように、世界でカジノも廃れる運命にある。(pp.120)
こうお書きになり、わが国のIR事業推進にたいし否定的見解を提示なさいました。
最後に、台湾では、2020年1月におこなわれた「総統・副総統選挙」の取材に専念されています。
まず、近藤氏は民進党の選対本部を訪ね、
「明るい雰囲気だなあ」というのが第一印象だった。(中略)
入口で配っていたクリアファイルは、63歳の蔡英文総統にセーラームーンのようなコスプレをさせ、アニメキャラクターにしていた。受け取ったとたん、目が点になった。(pp.156)
もしかすると『美少女戦士セーラームーン』ではなく(「蔡総統に似ている」と囁かれる)『艦隊これくしょん』の「霧島」コスプレだったのではないかと思われますが、断言はできません。
つづいて国民党本部に向かい、同党の凋落ぶりを目の当たりにしました。
候補者のポスターに堅苦しい表現が用いられていたことから、
民進党なら「1票お願いねっ!」とでも書きそうなところだ。まさに国民党が「百年老家」と揶揄(やゆ)されるゆえんだ。(pp.162)
おっと、ここはセーラームーンだけに「民進党なら『1票投じて(国民党に)おしおきよ!』とでも書きそうな~」ではないでしょうか?
別のページにて、唐突な感じで複数回、著者が民進党の副総統・頼清徳氏を低評価なさっていたのが気になります……。
以上、『アジア燃ゆ』は現下のアジア情勢を知るうえで手引きになるとはいえ、執筆した人物の主観だの個人的な事情だのが多く含まれているかもしれない点は注意すべき読物でした。
金原俊輔