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『日本と台湾 真実の戦後史:語られなかった断交秘話』、松本あや彦著、ビジネス社、2021年。
松本氏(1939年生まれ)は東京都のご出身です。
中央大学法学部を卒業後、自由民主党本部に就職し、爾来、わが国の政治に民間のお立場で関与してこられました。
約50年にわたるご活動で最も尽力なさったことは、日本と台湾との交流。
本書は氏が主導された日台交流のうち、最重要な事項を選んで回想した内容でした。
わけても特筆すべきは「謝謝台湾 - 黒潮泳断チャレンジ(pp.167)」です。
2011年の「東日本大震災」にたいし台湾から寄せられた莫大な(総額264億円といいます)義捐金への返礼として、岩手県・宮城県・福島県の3県知事による感謝メッセージをたずさえ、日本の若者たちが沖縄県与那国島と台湾・蘇澳(すおう)をまたぐ海域を泳いで横断する、一大プロジェクトでした。
鈴木一也氏という青年が松本氏にもちかけたアイデアであり、松本氏は即座に賛同されて、下準備も含め全面協力をなさいました。
そして実施。
松本氏が台湾の海岸で泳者たちの到着をお待ちになっていると、
台湾の人たちは報道で知っていて、メディア関係者だけでなく地元の人たちも続々と集まってきた。(中略)
52時間に及ぶ悪戦苦闘の末、全員が無事に台湾へやって来たのだ。陳栄坤(ちんえいこん)さんをリーダーとする中華成人遊泳協会のメンバー数名が、日本の若者の勇気を称えたいと出迎えに泳ぎ出した。歓声に包まれ上陸してきたびしょ濡れの鈴木君と、私はしっかり抱き合って彼の労をねぎらった。(pp.178)
ほほえましい情景です。
このほかにも、台湾各地での桜の植樹、同国で評価されている日本人・八田與一(1886~1942)を顕彰した記念館への八田遺品贈呈、わが国の統治期に抗日運動が発生した霧社における友好行事開催、等々、多くの偉業を果たされました。
功績が認められ、日本の外務省に相当する台湾外交部が松本氏へ「外交奨章」を授けています。
日本の民間人としては初めてのことだという。(中略)誠に光栄なことである。(pp.219)
わたしもお慶び申しあげます。
『日本と台湾 真実の~』に接したおかげで、与党中枢に台湾への熱い思いをいだいている人物がおられる事実を知りました。
以下、本書の書評から離れますが、東日本大震災以降、台湾人と日本人のあいだには温かい感情が流れつづけています。
どちらかの国に困難が発生するつど、もう一方が立ちあがって支援する、そんな善意の循環が定着してきたのです。
たとえば、コロナ禍により国境を越える移動が制限された状況下、2020年3月、ペルーに足止め中だった日本人観光客複数名が台湾のチャーター便に乗せていただき、同年4月、インドにとどまっていた台湾人たちを今度は日本の退避便が邦人に交えて搭乗させ、おなじく5月、ロシアから避難する日本人のための航空機がやはり台湾人用に席を提供しました。
そして2021年3月現在。
中国がとつぜん台湾産パイナップルの輸入を禁止したせいで、生産されたパイナップルの行き場がなくなってしまったのですが、それを知った日本のいくつかのスーパーマーケットがパイナップルを大量注文、果実が国内に到着するや一般市民がこぞってスーパーへ向かい、苦しむ台湾のために買う動きが広がっています。
意義ある御恩返しの動きです。
報道によれば、全国あちこちで完売状態になっているとのことでした。
つい先日、長崎メンタル社も遅れじとばかり台湾産パイナップルを多数購入し、社員一同で分け合いました。
たいへんおいしかったので、しばらくしたら再度もとめようと計画しています。
金原俊輔