最近読んだ本435

『真説・佐山サトル:タイガーマスクと呼ばれた男』、田崎健太 著、集英社文庫、2021年。

主人公の本名は佐山聡。

1957年生まれ、山口県ご出身です。

地元の高校を中退したのち上京、プロレス界に身を投じ、ひたむきな努力のすえデビュー、新日本プロレス「タイガーマスク」として一世を風靡(ふうび)しました。

旧来のプロレスファンたちは、タイガーマスクの派手な技を、腕組みして見ていたということもあったろう。
ただ、先入観のない子どもたちは正直だった。漫画の中から飛び出たような動きを見せる、タイガーマスクに声援を送った。タイガーマスクの出現はプロレスのファン層を変えたのだ。(pp.176)

わたし自身、往年タイガーマスクが大評判だったことをおぼえています。

佐山氏のお弟子さんによれば、

「佐山先生っていうのはプロレスラーとして、猪木、馬場はいるにしても、力道山の次ぐらいにプロレスを世の中に知らしめた人です。(後略)」(pp.554)

これほどの存在でした。

佐山は終始穏やかで、細かな質問にも嫌な顔を一つせず答えてくれた。(中略)実に紳士的な男だった。(pp.10)

佐山は公平で真っ直ぐな男である。(pp.403)

お人柄も魅力的であるみたいです。

1985年~1986年ごろ、佐山氏はプロレスと距離を置くようになり、格闘技界へ進出されました。

こちらでも「修斗(しゅうと)」「掣圏道(せいけんどう)」などの団体を立ち上げられ、世間の耳目を集めます。

本書は、以上の顛末を追ったノンフィクションでした。

丁寧な取材に基づいている作品です。

ただし、わたしはプロレスに興味をもっておらず、佐山氏の試合を観戦したことすらなく、以上2点のせいで、読書の喜びが半減してしまいました。

著者(1968年生まれ)が『真説・佐山サトル』ご執筆に時間と労力を注がれたのは読んでいて伝わってきますから、たいへん申し訳なく思います。

当方、格闘技は好きなのですが、修斗が人気だった時代、テレビを所有していなかったり、日本に住んでいなかったりしたため、視聴する機会がありませんでした。

ページを繰りつつ「見ておきたかった、惜しいことをした」と悔やみました。

本書では、裏の主題のごとき感じで、プロレス界および格闘技界において甚(はなは)だしく金銭の出入りが不透明かつ不健全であり、その結果、諸団体・各関係者はトラブルまみれになっている、こんな残念な事実が記されていました。

まあ予想はしていました……。

佐山聡氏という希代の格闘家の人生にくわえ、プロ・スポーツの暗黒面にも目を向けさせてもらった一冊でした。

そして「文庫版あとがき」によれば、2021年現在、氏はパーキンソン病を患っていらっしゃる由。

わたしにとって、彼はおおむね同世代の人物です。

それだけにご自愛・ご平癒を祈念いたします。

金原俊輔

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