最近読んだ本300
『子規の音』、森まゆみ著、新潮文庫、2019年。
俳人そして文筆家だった正岡子規(1867~1902)に関する評伝です。
当人が生まれてから亡くなるまでのあまり長くはない人生を遠望しつつ、同時に、彼の俳句により音感が刺激されるという森氏のご反応、たとえば、
鳴き声が聞こえるような句。(pp.62)
どの句もなぜか音が聞こえるような……。(pp.129)
静かな街の音が聞こえる。(pp.177)
こうした見解を交錯させた、丁寧な作品でした。
わたしは以前、子規の高弟・高浜虚子(1874~1959)の流れをくむ「写生派」の集まりにて作句を学んでいたため、とりわけ内容に引き込まれました。
森氏は1954年生まれ。
明治期の文学史にそうとうお詳しいかたみたいです。
書中の登場人物全員にたいし、出自・学歴・業績・こぼれ話など、微に入り細を穿(うが)つ紹介をなさいました。
わたしは、森鴎外(1862~1922)や夏目漱石(1867~1916)の伝記でしたら、すくなからず読了しています。
いっぽう、正岡子規が出てくる本は、
司馬遼太郎著『坂の上の雲』、文春文庫(1978年)
司馬遼太郎著『ひとびとの足音』、中央公論社(1981年)
せいぜい2冊ぐらい……。
ただし、上記どちらにおいても子規その人が主人公だったわけではありませんでしたから、今回の『子規の音』のほうが、はるかに深く鋭く彼のことを掘り下げています。
本書は『坂の上の雲』と同じく、子規が故郷の愛媛県松山市を詠んだ、
春や昔十五万石の城下かな(pp.16)
で、話をスタートさせているところがご愛敬でした。
「春や昔~」は、わたし自身、大好きな句。
「字余り」
「切れ字の重複」
俳句作法におけるふたつのタブーを犯してはいるものの、春風駘蕩とした風趣が感じられ、しみじみ心にのこります。
金原俊輔