最近読んだ本301

『しんがり:山一證券 最後の12人』、清武英利著、講談社文庫、2019年。

上掲書が良質のビジネス・ノンフィクションである旨の評判は知っていましたが、これまで目を通すきっかけがなく、しかし、今回ついに入手することができました。

期待しつつページを開き、「プロローグ」の、

「後軍(しんがり)」という言葉がある。戦に敗れて退くとき、軍列の最後尾に踏みとどまって戦う兵士たちのことだ。彼らが楯となって戦っている間に、多くの兵は逃れて再起を期す。会社破綻を企業敗戦ととらえれば、自主廃業の後で働いた社員たちは、しんがりの兵士そのものであった。(pp.13)

わたしはもう、これを読んだだけで感動し、涙ぐんでしまいました。

1997年、自主廃業をした山一證券株式会社。

約2600億円の帳簿外債務があったことが廃業の原因です。

同社は、創業100年、社員数1万人、証券業界第4位の、由緒ある大企業でした。

会社の消滅に際し多くの社員たちが他所への再就職を欲して奔走するなか、真相究明と清算業務をおこなうために12名の男女が約1年半、社内にとどまり、無給でお仕事をなさいました。

『しんがり』は、彼ら・彼女らの奮闘をつづった作品です。

12名の皆さま、どなたもが懸命で誠実な生きかたを示され、わたしは頭が下がりました。

話の筋はまったく異なるのですが、読書中、なぜか『忠臣蔵』をイメージしました。

「関係者全員ではなく、ごく少数が……」という点に類似性があるようです。

さて、著者(1950年生まれ)は本書「あとがき」において、

ここに登場する「嘉本一家」の12人はいずれも平凡なサラリーマンやOLである。それまでは驚くようなことをしたわけではなく、何事もなければ他人に知られることはなかった人々であろう。たまたま企業敗戦という時に、しんがりを務めたために隠れた能力と心の中の固い芯が表れた。(pp.425)

こうお書きになっています。

文中にある「心の中の固い芯」、一例を見てみましょう。

12名のうちのおひとりだった郡司由紀子氏。

彼女は、のちに膵臓がんとなり、残念ながら亡くなられました。

ひとりで死への準備を進め、母親の最期も看取り、あることを妹に託した。それはつましい生活の末に残った財産を、京都大学のiPS細胞研究基金に寄付してほしいということだった。
山一が破綻して蓄えの大半を失った後、彼女は簡素な暮らしの中からそれこそ一滴ずつ貯め、運用していた。(中略)
その大半を研究所に送り、残る一部を日本ユニセフ協会にも寄付して、と遺言にはあった。(pp.427)

わたしにとって、人が所持すべき崇高さというものを、つくづく考えさせられる内容でした。

自分を振り返り、猛省もしました。

金原俊輔

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