最近読んだ本337

『香港デモ戦記』、小川善照著、集英社新書、2020年。

タイトルに含まれている「戦記」という表現は、けっして大げさではありません。

2020年6月現在、香港はまさに戦場と化しているのです。

そもそもの発端は2019年6月。

デモの引き金になったのは、犯罪者を外国に引き渡す「逃亡犯条例」の改正である。この条例改正が実現すると、中国・北京政府が犯罪者と認めた香港人、外国人を香港で逮捕することができるようになり、そのまま中国に送ることが法律上可能になる。(PP.13)

以降、同地では大規模デモがつづきました。

1年が過ぎた今どうなったかといえば、残念ながら状況は増悪しています。

2020年5月に、中国が自国への反発行為を取り締まる「香港版国家安全法」を成立させたためです。

上掲書は、こうした世界の自由・民主主義の危機ともいえる歴史的な事件を、著者(1969年生まれ)ご自身が修羅場を駆けめぐりつつ取材された、迫真のルポでした。

香港市民たちがもつ現状維持への渇望、死力を尽くした抵抗、警察官らがふるう暴力への恐怖、などが具(つぶさ)に記されています。

デモ隊の皆様の「涙や怒り(PP.24)」も滲(にじ)んでいました。

心が揺さぶられます。

本文のところどころで、いかなる混乱の渦中にあろうとモラルを守らんとする香港人の高い民度が活写されており、たとえば、

日本の国会にあたる香港の立法会。ここに(中略)学生を中心としたデモ隊が突入した。(PP.68)

彼らは立法会内部にある香港の歴史に関わる貴重な文化資産や文物には、一切手をつけなかった。さらに、事務局には金品などもあったが、それらを略奪することもなかった。それは徹底されており、議員控え室には、議員のために飲み物が用意されていたのだが、その飲み物を飲んでも、彼らは律儀に代金を置いていったのだ。(PP.90)

すがすがしい逸話でした。

しかし、あとで彼らに襲いかかってくる弾圧の危険性を想像するや、苦しくなります。

悲惨だったのは、

6月16日のデモの前日には、35歳の男性が遺書となるメッセージを残して飛び降り自殺をした。政府庁舎にも近い現場には、祭壇が作られて、多くの人が手を合わせに列をなした。(中略)
6月29日にも女子大生が抗議のメッセージとともに飛び降り自殺をした。その現場近くには、やはり有志によって作られた祭壇が設けられた。そこに手を合わせるため、多くの人々が並んでいた。同級生なのだろうか、その場で泣き崩れる若い人も多かった。(PP.168)

お悔やみの述べようがないできごとです……。

さて、日本はアジア有数の先進国であり、かつて4年ほど香港を統治したご縁もあります。

香港のために立ち上がるべきでしょう。

先進国としての、旧・宗主国としての、責任を果たさなければなりません。

何ができるか?

わたしにひとつ腹案があります。

日本政府が中国と話し合って香港を「経済特区」にしてもらい、してもらったうえで香港を「TPP11」に加盟させるのです。

そうすると、香港の自治が(ある程度までは)保障されることにつながり、国際金融センターとしての地位も回復する、しかも「TPP11」をとおした金融や貿易の結果、中国とて財政面で大いに潤う。

こんな「ウィンウィン」「三方よし」が期待できるのではないでしょうか。

素人の思いつきですので欠陥だらけの愚案でしょうが、弱い部分は専門家諸氏に補強していただき、むろん他の方法があればそれでも結構ですし、とにかく敢然と香港を助けたいものです。

金原俊輔

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