最近読んだ本481:『シーボーンキングダム:千年の時を刻む』、神近義邦 著、志學社、2021年
長崎県佐世保市に「ハウステンボス」というオランダ王国の風物に敬意を表したテーマパークがあります。
本書の著者・神近氏(1942~2020)が創設されました。
同氏は「長崎バイオパーク」や「長崎オランダ村」の創業者でもいらっしゃいます。
私はこれからの人生、オランダ人に学び、オランダとともに生きようと心に決めたのである。(pp.4)
こうしたお考えをおもちのかたでした。
往年、わたしの弟が長崎オランダ村に入社し、ハウステンボスへ異動して常務取締役となったので、バイオパーク、オランダ村、ハウステンボスは、われわれ家族にとって身近な存在です。
わたし自身、何度も上記3園を訪ねました。
神近氏は他界されてしまいましたが、弟を育ててくださり役員へ登用してくださったことを、両親ともども衷心より感謝しています。
さて、ハウステンボス。
別名は本書タイトルどおり「シーボーンキングダム(海から生まれた王国)」。
1992年(平成4年)の誕生です。
わたしは当コラム冒頭にてハウステンボスをテーマパークと紹介したものの、じつは、神近氏が志向なさっていたのはテーマパークではなく「エコロジーとエコノミー(pp.189)」が共存する「環境未来都市(pp.2)」でした。
平成時代初期に、氏が「エコロジー」「環境」を重視した街づくりを着想され、着想を夢物語で終わらせずに実現化させたのは、すごいパワーだったと思います。
次第に入場者が増え始めた。6月、7月と予想を大きく上回り、1万3千円と見込んでいた客単価が1万4千5百円となり、(中略)ホテルの稼働率も90%を超えた。(pp.386)
マイケル・ジャクソンから電話がかかってきた。
彼は数日前のハウステンボス訪問時に(中略)クリスタルドリームを見て「グレイト! グレイト!」と連発するほど気に入っていた。(pp.391)
しかし、じわじわ経営不振となって、神近氏は2000年(平成12年)に社長職を引責辞任、ハウステンボスは2003年(平成15年)、会社更生法を申請しました。
残念です。
氏も、社員のみなさまも、ハウステンボスを守るべく死力を尽くされただろうと拝察します。
とはいえビジネスですから、不本意な結末だってあり得るでしょう。
そして、わたしが『シーボーンキングダム』通読開始の際に期待したのは、ハウステンボスが会社更生法を申請したくわしい経緯を知ることでした。
経緯を知り、ビジネス界の新参者として「他山の石」的な学びにつなげたい、こう考えたのです。
けれども書中、経営破綻の件は最後の最後、わずか1~2ページに記されていただけでした。
当該ページにいたるまでは著者が多種多様な人々と邂逅し親しく交わった話やハウステンボスオープン前の紆余曲折に関する話ばかりでした。
わたしの期待はかなえられませんでした。
本書は神近氏が晩年に執筆された作品で、もしかするとご病気のため時間が足りず、破綻の詳細述懐にたどりつけなかったのかもしれません。
唯一、氏は「経営者として三つの判断ミスを犯していた(pp.400)」と、自省なさっています。
けれども上の引用文につづく文章を読み、わたしは「果たしてそうなんだろうか」と疑問をおぼえました。
私見を述べます。
ハウステンボスの「事業費は5400億円(pp.304)」だった由ですが、これは借入金でまかなわれました。
返済しなくてよい企業独自の元手はほとんどありません。
ほとんどなかったのに、壮大な構想を練り、構想に引きずられて超弩級の施設をつくりあげてしまった……。
最初から無理筋だったのではないでしょうか?
資金がないのだったら、もっと小さくスタートし、それこそ神近氏が書内で複数回言及なさった「オランダは一つの街を50年かけてつくっている(pp.188)」ぐらいの気がまえで地道に取り組んでゆかれるべきでした。
私見の証左は「エイチ・アイ・エス」社。
2022年(令和4年)現在、同社がハウステンボスを所有しており、神近時代を超える巨資を適宜投じた結果、みごと経営を立て直したのです。
潤沢な自己資金の裏打ちがある環境都市計画・未来都市計画としては、トヨタ社の「ウーブン・シティ」も思いだされ、将来の成功が楽しみです。
金原俊輔