最近読んだ本493:『「トランプ信者」潜入一年:私の目の前で民主主義が死んだ』、横田増生 著、小学館、2022年

横田氏(1965年生まれ)は潜入して取材する手法を頻用なさるジャーナリストです。

わたしは、これまで、

横田増生 著『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』、朝日文庫(2010年)

および

「最近読んだ本124」

以上2冊のご著書を読みました。

どちらも潜入ものでした。

つい「正々堂々と名前や身分を提示して取材するべきでは?」と思ってしまう反面、たしかに潜入取材のほうが生々しい情報を入手でき、報道に値するルポルタージュとなるであろうことは、

鎌田慧 著『自動車絶望工場:ある季節工の日記』、現代史出版会(1973年)

の時代から不変みたいだと理解できます。

今回、横田氏は『「トランプ信者」潜入~』執筆にあたって、やはり潜入取材をなさいましたが、「日本から来たジャーナリストだ(pp.13)」と立場を明らかにしたのち聞き取りをなさった場面もありました。

取材対象者を裏切らないという点では、そちらのほうが良いでしょう。

さて、ドナルド・トランプ氏(1946年生まれ)。

アメリカ合衆国第45代大統領で、在任期間は2017年1月20日~2021年1月20日。

2020年におこなわれた大統領選挙で落選したものの、トランプ氏は「大規模な不正投票(pp.347)」があったとして敗北を認めませんでした。

とうとう退任直前の2021年1月、彼を熱狂的に支持し、彼の扇動を受けた群衆が「連邦議会議事堂襲撃事件」を起こしてしまいました。

警官1人を含む5人が死亡し、警官だけでも140人が負傷した。(pp.399)

副題のごとく「民主主義が死んだ」と見なしても的外れではない惨事でした。

しかしトランプ氏は、退任してから2022年3月現在にいたるまで、有権者たちのあいだで隠然たる人気を保ちつづけ、2024年の大統領選挙に再出馬すると目されています。

この『「トランプ信者」~』は、2020年1月より約1年間にわたって大統領選を追った作品。

横田氏は、トランプ側ボランティアとして戸別訪問をしたり、選挙関係の事件が発生するや現場に駆けつけたり、デモに同行したり、新大統領ジョー・バイデン氏の就任式に参加したり、アメリカ各地を精力的に動き回られました。

氏がトランプの演説を聴きに行った際、

トランプは、まるで手練(てだ)れの人形遣いで、会場に集まった支持者という「人形」を自由自在に操った。聴衆は、トランプの掌で転がされ、歓喜し、叫び、怒りながら大満足して帰っていった。(pp.49)

印象的な光景に遭遇していらっしゃり、わたしは引用文を読んでトランプ氏が所持するカリスマ性に驚嘆しました。

本書は、徹頭徹尾、潜入ルポならではの切迫した空気に満ちています。

ただ、読了後すこし心配になったのは、日本の読者たちが「トランプ支持層は極端に異常」と受け止めてしまうかもしれないこと。

著者が「これまでのトランプ支持者と区別して『トランプ信者』と呼ぶことにした(pp.347)」とお書きになったとおり、実際、「信者」っぽい、極端な人々が存在してはいる模様です。

とはいえ、アメリカ大統領選は、いつも大なり小なりこんな調子なのです。

大統領選挙とは、いわば国を挙げての「交戦状態」に入ることを意味している。(pp.343)

アメリカのアイオワ大学で学ばれた著者はよくご存じで、わたしも同国留学中、大統領選挙となれば知人や同級生らの目の色が変わる現象に気づいていました。

わが体験と著者の取材体験の違いは、当方の留学時代の大統領選は「共和党か、民主党か」で騒いでいたのに対し、トランプ登場以降は「トランプか、民主党か」の様相を呈しだしており、トランプ氏の声価が自身の所属政党である共和党のそれを凌駕しているところでしょう。

金原俊輔