最近読んだ本496:『ほいきた、トシヨリ生活』、中野翠 著、文春文庫、2022年

書店にて本書を見かけた際、わたしは「トシヨリだなんて自虐的な」と思いました。

中野氏(1946年生まれ)は若いころから旺盛な文筆活動をなさっており、しかも瑞々しい感性が特長の随想が多いため、同氏の著作を読みつづけてきたわたしは氏が齢(よわい)を重ねていらっしゃると気づいていなかったのです。

2022年現在、氏は75歳あるいは76歳になられ、たしかに間違いなく高齢者でいらっしゃいました……。

さて、『ほいきた、トシヨリ生活』は、

「若さ」への、そこそこの努力。「老い」への、そこそこの受容……。そんな気持で書いた本です。(pp.193)

まさに企図なさったとおりの内容。

全6章の章タイトルが「美老人への道」「おすすめ老人映画」「バアサン・ファッション」「老後の愉しみ」などで、章内に収められている各項は「美老人ナンバーワン 笠智衆」とか「髪のモンダイ 女性篇」とか「自分史のすすめ」、はたまた「メール句会」だの「ボケ」だの「御隠居さん」だの、若さの余喘(よぜん)保ちと老化の甘受を題材にした話ばかりです。

66歳であるわたしは、自分の過去を懐かしみ、いまを直視しないではいられず、将来を予想させられ、微苦笑をたたえつつ吐息を漏らしつつ最後まで読み進みました。

共感したのは中野氏が抱く俳優・笠智衆(1904~1993)への敬愛の念。

当方自身、子ども時代に笠出演の映画を鑑賞して「自分もこんなお爺さんになりたい」と考えたものです。

たぶん日本のたくさんの男性たちが彼を「めざすべき老人像」と位置づけていたでしょう。

つぎです。

中野氏は早稲田大学で評論家の呉智英氏(1946年生まれ)と同学年でした。

その呉氏はイラストレーター・南伸坊氏(1947年生まれ)とご昵懇。

本書ほぼ中盤「髪のモンダイ 男性篇」において、

呉智英氏登場。「はなはだ不本意なのは(帽子をかぶっていると)まるで毛の薄くなってきたのを気にして、かぶり出したと思われることなんだよ」と語り、それに対して伸坊さんは「それは思うナ、フツー」と受ける。呉智英氏は「それが違う! ハゲる前から帽子が好きで、かぶりたいかぶりたいと思っていた」「たいがいの人は似合うのだ。おどおどせずに、えい! とかぶってしまえばそのうち似合ってくる」と主張。(pp.106)

呉氏と南氏による遠慮のないやりとり、それをまた遠慮なく紹介する著者、老後、これほど心遣いが不要なお友だち関係を有していらっしゃるのは望ましいことと考えます。

実際、著者は他のページで、

ひとり暮らしを不満なく続けてこられたのも友人たちのおかげと感謝している。(pp.166)

こうお書きになりました。

最後に、中野氏が意識しておられた「若さへの、そこそこの努力。老いへの、そこそこの受容」ですが、わたしに該当する状況があるかといえば、毎晩3キロ程度走っているのが前者に、睡眠時間が短くなってしまった(のみならず、しょっちゅう夜中に目覚める)現象を「加齢のせいなんだから仕方ない」と受け入れているのが後者に、それぞれ当てはまるみたいです。

金原俊輔