最近読んだ本507:『美しくないゆえに美しい女たち』、小谷野敦 著、二見書房、2021年
とくに美貌ではないけれども、美貌以外の何らかの要素が働いて美しく見える、そういうタイプの人々について考察した本です。
考察の対象となったのは全159名。
ほとんどが女性でしたが、歌舞伎の女形役者も少なからず含まれていました。
芸能人、作家、学者、政治家、スポーツ選手など、職業はまちまちです。
ご存命のかたばかりではなく、すでに亡くなっている歴史上の人物も登場しました。
国籍は、日本および外国。
とにかく全領域を網羅している、という印象を受けます。
うち、アストリッド・リンドグレーン(1907~2002)。
「スウェーデンの児童文学作家(pp.252)」で、『長くつ下のピッピ』の原作者です。
わたしは中学1年生だったときにリンドグレーン著『名探偵カッレくん』を同級生から勧められて読み、すぐさまカッレくんシリーズに嵌(は)まり、それがきっかけで今にいたるまでの読書好きになったと、リンドグレーンおよび同級生に感謝しています。
つづいて、小池栄子氏(1980年生まれ)にまつわるページを開いてみましょう。
わたしは上記女優を「きれい」と感じていたため、どうして小谷野氏が「美しくない」に認定したのか、不思議でした。
けっきょく、
08年に、万田邦敏の映画『接吻』に主演して、小池栄子ってこんな美人だったのか、と世間を驚倒させた(後略)。(pp.104)
小谷野氏は(そして世間も)小池氏の美を認めており、だとしたら、『美しくないゆえに美しい女たち』というタイトルですので彼女には本書への出場資格がないと思われます。
神近市子(1888~1981)。
長崎県出身の政治家です。
この人はタイトルの前半部分だけで十分なように想定され、であるならば、小池栄子氏とは逆の意味で出場資格がないのでは?
以上の、小谷野氏の選択基準に関する賛否はさておき、わたしは氏の着想に敬意を表します。
これまで女性の美しさを論じた本はたくさんありました。
わたしが目をとおしたのは、
井上章一 著『美人論』、朝日文芸文庫(1995年)
ナンシー・エトコフ 著『なぜ美人ばかりが得をするのか』、草思社(2000年)
中村うさぎ 著『美人とは何か?:美意識過剰スパイラル』、文芸社(2005年)
などです。
これらはどれもストレートに美と向かいあっており、いっぽう小谷野氏による本作は、
ブスであることによって美である、ということがある、ということは、押さえておいてもいいだろう。(pp.3)
従来とは異なった斜め方向からの切り口を提示しています。
ユニークです。
小谷野敦 著『もてない男:恋愛論を超えて』、ちくま新書(1999年)
において仄(ほの)見えていたのですが、小谷野氏はエッセイの新しいジャンルを切り開くことができる書き手でいらっしゃるのではないでしょうか。
金原俊輔