最近読んだ本582:『時代を創った怪物たち』、島地勝彦 著、知的生きかた文庫、2023年

島地氏(1941年生まれ)は、2008年まで、集英社『週刊プレイボーイ』誌の編集長を務められていたそうです。

退任後、エッセイを書いたり、ご自分のバーを経営したり、なさっている由。

豊かな教養をおもちのかたで、『時代を創った怪物たち』のページを繰るや、氏の読書量がいかに膨大であるか、即座に窺えます。

書中、政治家・芸術家・学者・軍人・冒険家といった「怪物たち」全100名のエピソードを紹介してくださっているのですが、おそらく人物ひとりにつき最低5冊の評伝・自伝を読了していなければ記せないような、あまり知られていない余話だらけでした。

わたしがかろうじて島地勝彦氏と比較できるぐらい伝記をひもといてきた対象者は、「夏目漱石(pp.344)」です。

10冊ほど読みましたから。

次席は冊数がグッと減り、「チェ・ゲバラ(pp.52)」「南方熊楠(pp.84)」「アインシュタイン(pp.188)」「高橋是清(pp.316)」「ベートーヴェン(pp.364)」「ゴッホ(pp.388)」「開高健(pp.413)」が2冊ずつ。

上記以外の本書登場者は、当方が伝記を1冊読んだことがある程度の人たち、および、伝記などに接していない、ほとんど知らなかった人たち、でした。

知らなかった人として、たとえば「東京ローズの戸栗郁子(pp.160)」。

わたしは東京ローズという言葉を聞いた記憶を有していただけで、どこで何をした女性なのか全く分っていませんでした。

おかげさまで分りました、『時代を創った~』は勉強になります。

著者がご当人たちに語りかける口語調の文章でしたので、高レベルな内容であっても読みづらくはありません。

ところで、以下、わたしが本書を通読して感じた島地氏のご工夫について述べます。

それは、氏が100名の人々の生涯を執筆するにあたり、なるべくインターネットに載っていない情報の提供を企図し、そのため、ご自身の体験談を多く挿入する展開となっているのではないか、というもの。

具体例として、「今東光(pp.404)」章における、最晩年の今大僧正と島地氏のやりとりがあげられます。

お見舞いに訪ねました。しかし、あなたを看病していた奥様に、あなたがこう言っていると告げられ、面会を断られたのです。
「シマジだけは、病室に入れないでくれ。あいつには、こんな無精ヒゲのおれを見せたくない」(pp.406)

わたしの当て推量の正誤はさておき、何かを書く際にインターネットを意識しなければならないことは現今の文筆業者にとって不可避といえるかもしれません。

書籍や雑誌や新聞がネットに押される現象は、もうとっくにそうなりだしているし、これから一層着々とそうなってゆくでしょう。

ただ、わたしは完全に押し出されてしまう日が少しでも先であってほしいと希望しており、先のばしを成功させるには、紙媒体を通してでなければ得がたい情報だってあるという事実を世の中に知らしめないといけない、こう思うのです。

金原俊輔