最近読んだ本637:『古本大全』、岡崎武志 著、ちくま文庫、2024年
岡崎氏(1957年生まれ)における古本への沸騰するほど熱い思いは、
岡崎武志 著『古本道入門:買うたのしみ、売るよろこび』、中公文庫(2017年)「最近読んだ本50」
で、知りました。
わたし自身、古本屋さんに入る瞬間はワクワクしますし、店内での長居が楽しく、そして書籍購入の際は笑顔になります(古本屋へ行く頻度、古本屋内で費やす時間、古本屋で買う本の冊数・金額は、岡崎氏の足元にもおよびません)。
氏とこうした若干の類似点があるため、いいえ、そんなことより何より、前に読んだ『古本道入門』がとてもおもしろかったので、わたしはこの『古本大全』を手に取りました。
ページを繰りだすや、古本屋でのマナー、個性的な古本屋の紹介、古本を追い求める著者の日常、古本を愛した文化人たちの珍談奇談、作家論、書評……、本書は読書にまつわる話題のぎゅうぎゅう詰め状態。
おそらく「重症の『活字中毒』患者(pp.257)」たちには堪(こた)えられない好著ではないでしょうか?
わたしなど『古本大全』のおかげで改めて自分の人生に読物がある喜びをかみしめました。
ところが、岡崎氏は、
2019年ぐらいから、こんなに古本を買わないことってわが生涯で珍しい。(pp.399)
と、どうやら年齢が高くなるに連れ、本への情熱が衰えだしているご様子です。
加齢にともない好みが変化したり生活パターンが変わったりしてしまうのは、氏と同じ世代のわたし自身も現在進行形で体験しており、これはもう、移ろいを素直に受け入れるしかありません。
さて『古本大全』には当方にとって懐かしい話や初耳の情報や深く共感するお考えがたくさん記されていました。
それらのうちから以下3つを選び、簡単な感想を述べます。
まず、
ダイエット本は清涼飲料水のようなもので、目先の変わった新製品が次々生まれ、一時期売れて、すぐ忘れ去られていく。考えてみれば、これまで出たタレントが書いたダイエット本をすべて集めればけっこうな資料になるし、それを元に一冊の本が書けてしまうはずだ。誰かやってみませんか?(pp.124)
さすが。
広範なジャンルの書籍を読みつづけてきた岡崎氏ならではの着想です。
わたしが中学生だったころベストセラーとなった、
弘田三枝子 著『絶対やせる ミコのカロリーBook』、集団形星(1970年)
にも言及してくださっていて、こちらはすでに前期高齢者、往年を偲び、ジーンと来ました。
つぎに、
西荻窪にあった「スコブル社」(店名は宮武外骨に由来)。南北を貫く大通りの一本裏筋、西荻南2丁目、「天心堂」の近くにあった店。
ここを懐かしがる中央線人は多いだろう。(中略)
西荻は昔から古本屋の多い町だったが時代の消沈により徐々に姿を消しながら、それでも「盛林堂書房」「音羽館」「忘日舎」「にわとり文庫」、少し離れて「西荻モンガ堂」がそれぞれの流儀を守って営業を続ける。(pp.295)
わたしはサラリーマン時代にJR中央線の西荻窪駅で乗降車しており、毎日、駅周辺をぶらついていたのですが、古本屋さんって、ありましたっけ?
どうも自分の中で「西荻は昔から古本屋の多い町だった」なる印象が薄いうえ、出てきた店舗名にも心当たりがなく、少々とまどいました。
とにかく現在、西荻は古書店が散在する街らしいです。
いつか訪ねます。
最後に、
『朝日新聞』の「声」欄に、21歳大学生からの「読書はしないといけないの?」なる投書があった。(中略)
これについてどう思うか、賛否の意見が寄せられ、(中略)「大人は読書を押しつけないで」と同調する中学生、「人との出会いを求めるなら」と諭す中年など様々。私はこのやりとりを不毛に思い、冷たく見ていた。もちろん、投書した某君は、読書する必要などまったくなく、そのまま一生を終えればいいのである。ただ、気の毒な人だと思うが……。(pp.355)
冷淡な文章であるものの、同感。
今後、まったく「若い奴らが本を読まない(pp.358)」社会が到来し、21世紀が終了するはるか以前に、紙の本を読むのは限られた知識人や好事家たちの特殊な趣味と化してしまうでしょう。
暗澹たる気もちになります。
金原俊輔