最近読んだ本638:『新・幕末史:グローバル・ヒストリーで読み解く列強 vs. 日本』、NHKスペシャル取材班 著、幻冬舎新書、2024年

上掲書は、江戸時代末期の情勢を、そのころの国際政治との関連や世界史とのつながりの中で展望しようとした歴史ノンフィクションで、

本書のきっかけとなった特集番組「NHKスペシャル 新・幕末史」は、2022年10月に放送された。(pp.322)

すでに放送された番組を新書化したもの。

かなり分厚く、古写真が多めの本でした。

率直な読後感を申しますと、タイトルに「新」が含まれているわりには、驚嘆するほど新情報だらけというわけではありません。

なぜかといえば、歴史小説や時代小説を読んでいる人だったら、いつのまにか頭に入る話題が少なからず語られていたからです。

アメリカ合衆国が関与する事例をあげましょう。

武器は(中略)世界的に見ても規模の大きい南北戦争が収束したことで、急に在庫がダブついてしまったのだ。(中略)
世界には、戦乱の火種を抱える国があった。幕府と反幕府勢力が鋭く対立していた幕末日本である。各国の武器商人は新たな市場として日本に目をつける。(pp.138)

かの国で南北戦争(1861~1865)が終わった結果、不要になった大量の武器・兵器が日本へと流れ込み、それが戊辰戦争(1868~1869)などに影響をおよぼした……。

初めて聞く話ならば「そうなのか! よかれあしかれ世界はつながっているんだ!」となるでしょうけれども、わたしの場合、池波正太郎(1923~1990)だったか司馬遼太郎(1923~1996)だったかの著作を通して知っていました。

ほかでは、

西郷隆盛との会談内容について、パークスは本国に報告を行っていない。(中略)会談では西郷がパークスに対して、徳川幕府を糾弾するよう迫っていた。(pp.154)

西郷とサトウのやり取りからは、薩摩が、貿易を始めとする外交の主導権を、幕府に代わって握りたいとする様子がうかがえる。(pp.185)

このあたり、海音寺潮五郎(1901~1977)の小説に書かれていたような。

ただし、当方は、ごく大まかなことを把握していただけです。

本書の執筆陣は、アメリカやオランダの大学の歴史学教授に教えを請う、イギリスの海軍基地を訪ねアームストロング砲を発射してもらう、等々、突っ込んだ取材活動を敢行され、埋もれていた史実をあまた発掘してくださいました。

極東の孤島であったわが国も実は世界各地の動きに左右されていたという、われわれ日本人が認識していなかった結論にいたる読物であり、そういった意味ではタイトルに「新」が含まれている件に納得。

勉強になりました。

ところで、『新・幕末史』のメインテーマから外れてしまうのですが、

下関戦争は、どのような戦いだったのか。(pp.80)

海からは、高精度の艦砲援護射撃。そして陸からは小銃部隊。二方向二種類の攻撃に、長州藩は対処できず、撤退。(pp.82)

長州藩は為す術(すべ)もなく敗れた。何と言っても、長州藩の作戦を狂わせたのは、想定外の範囲から繰り出されたイギリスの精密長距離砲撃だった。(pp.82)

技術(艦砲や小銃)の力で負けてしまったのは、やむを得ません。

しかし、下関戦争では(司馬遼太郎の作品によりますと)ちょっとした白兵戦もあって、そちらのほうでも日本側が敗れたはず。

本邦の誇りである侍たちが、ヨーロッパ人との白兵戦で劣勢だったのは、心底悔しいです。

金原俊輔