最近読んだ本654:『エビデンスを嫌う人たち:科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか?』、リー・マッキンタイア 著、国書刊行会、2024年
タイトル内の英語「エビデンス」は証拠・根拠という意味で、上掲書においては「科学界の確固としたコンセンサス(P. 290)」「科学的事実(P. 356)」「科学で広く支持されている事実や証拠、合意(P. 361)」を指す言葉として用いられています。
アメリカ合衆国における「科学否定論者(P. 14)」たちを丹念に取材し詳述した『エビデンスを嫌う人たち』。
フラットアース(地球は平らだという思い込み)、地球温暖化否定、反ワクチン、反GMO(遺伝子組み換え作物)、新型コロナ否定……、こうした話題が引きも切らず登場しました。
出てくるどの固定観念も科学の研究結果を黙殺し、出てくるどの顔ぶれも科学者の主張に耳を傾けようとしません。
本書を繰りつつ「今でもこんな連中がいるのか」と驚嘆した読者は少なくないでしょう。
わたしの場合、勉学の過程で非科学的な理屈を提示する胡散くさい心理学(深層心理学、人間性心理学、トランスパーソナル心理学、etc.)に多々接触してきたため、不本意ながら慣れており、さほど驚きませんでした。
非科学・疑似科学を糾弾する書物を好んで繙(ひもと)いていることも驚かなかった理由のひとつであるかもしれないです。例:「最近読んだ本261」「最近読んだ本511」
さて、科学哲学者でいらっしゃるマッキンタイア氏(1962年生まれ)は、「科学否定の五つの類型(P. 84)」なる役立つ指標を紹介してくださいました。
科学の裏づけがない言説に固執している人たちが、そもそも日常において、どう洗脳されたのか、どうやって科学の知見に抗(あらが)っているのか、を解き明かす指標です。
これについては、本文よりも日本人解説者の文章のほうが簡潔でしたので、以下、そちらから引用させていただきます。
1 証拠のチェリーピッキング 自分に都合のよい証拠や文献だけを「つまみ食い」すること。(中略)
2 陰謀論への傾倒 闇の勢力が世間には秘匿された陰謀を企てていると信じ込むこと。(中略)
3 偽物の専門家への依存 専門家としての権威を持つように見せかけつつ、科学的合意と矛盾したことを述べる人物を信頼すること。(中略)
4 非論理的な推論 藁人形論法や飛躍した結論等の誤った推論のこと。(中略)
5 科学への現実離れした期待 科学に「完璧な証明」を求め、不確実性がわずかでも残るような説や合意は信頼すべきでないと判断すること。(後略)(P. 364)
上記のうち「藁人形論法」が分りにくい表現です。
「相手の主張を歪めて、攻撃しやすいような弱いかたちに変えている(P. 97)」論法の由でした。
ともかく、世界には荒唐無稽な事柄を信じ込んでいる人々があまたいる、彼ら・彼女らの考えを変えるのは至難の業。
以上が本書で縷々(るる)述べられた内容です。
じゃあ、そのような人たちに対応するには……?
著者のアドバイスは、
対話から逃げてはいけない。
なぜなら、対話こそが新たな信頼と共感を育むための最良の方法であり、それが最終的には、認識の変化、社会の変化をもたらすと、私は信じている(後略)。(P. 356)
わたしは非科学的心理学を妄信する日米の心理学者諸氏と数えきれないぐらい「対話」を重ねてきましたが、まったく「共感」してもらえず、「認識の変化」を生じさせることにも失敗しました。
『エビデンスを嫌う人たち』に書かれていたご注意に基づけば、これは己(おのれ)の話しかたが良くなかったためだった、と反省いたします。
なお、本書では、妄信者たちに対する有効な質問の仕方(高名な科学哲学者だったカール・ポパーが考案)も語られました。
最後に、すでに記したとおり、アメリカでは遺伝子組み換え作物をGMOと呼びます。
そして、
GMOを食べることの危険性を示した信頼できる研究は、今のところ存在していない。(P. 248)
旨が、書中、折に触れ言及されました。
当方は、非科学的クレームをどこかで耳にしたせいで、愚かにも「遺伝子組み換え作物は危険」と誤解していましたが、(これまで当該作物を避けてきたわけではないものの)今後、安心して口にしようと思います。
金原俊輔