最近読んだ本656:『イランの地下世界』、若宮總 著、角川新書、2024年

10代でイランに魅せられ、20代以降より同国に出入りしている著者。

諸般の事情で「若宮總」のペンネームを用いて本書を上梓されました。

「1970年代に日本の某県で生まれた(P. 282)」由です。

わたしは、

ナルゲス・モハンマディ 著『白い拷問:自由のために闘うイラン女性の記録』、講談社(2024年)「最近読んだ本650」

を読み、「もうすこしイランのことを知りたい」と思って、この『イランの地下世界』を手に取りました。

そうしたところ、モハンマディ書と若宮書の内容がかなり隔たっており、「何かを知るためには本一冊だけでは不十分」という当たり前の事実に改めて気づかされました。

イラン国民はそれほど深くイスラム教の教えに帰依しているわけではない、中国でよく見られる「上有政策下有対策(上に政策あれば、下に対策あり)」と似た現象がイランでも蔓延している、イラン国民は政府発の情報を信用しておらず、大事な情報は海外または独立系のチャンネルから得ようとする、イラン人は誰もがものすごい会話好き、日本のニュースなどで放送される反米デモは「イランの自作自演(P. 131)」で、大多数のイラン人はそれを冷めた目で見ている……。

われわれの先入主を覆(くつがえ)す話題の目白押しでした。

さすが「長年イランという国でイラン人たちと暮らしてきた(P. 7)」、イランの言語であるペルシア語を「ほぼ完全に理解している(P. 198)」、若宮氏です。

とりわけおもしろかったエピソードは、イラン人が最も好きな国。

これは本当に、嘘偽りなく、主観を排して、客観的に、そして公平無私な立場で言わせてもらうが、答えはズバリ、日本である。(P. 181)

日本人として嬉しい文章ながら、驚きでもあります。

若宮氏はその理由を詳述してくださっており、納得。

文章が練れていて、分りやすい案内書でした。

それでは以下、『イランの地下世界』を読みながら感じた3つの事柄を書きます。

まず、わたしは当コラムの2行目にて、著者は「諸般の事情で」「ペンネームを用いて」いる、と記しました。

この件、かくも突っ込んだ内容の本を出す以上、お名前を隠すのが無難ということは、モハンマディ著『白い拷問』を卒読した者として理解できます。

著者の実名がうっかりイラン当局にバレてしまわないよう祈念します。

つぎに、ちょうど本書を読み終えたころ、かの国で大統領選挙がおこなわれ、マスード・ペゼシュキアン氏(1954年生まれ)が当選なさいました。

同氏はイランと西側諸国との良好な関係を求めている人物です。

新大統領のリーダーシップによって刑務所に幽閉されているモハンマディ氏(1972年生まれ)や他の人権活動家たちに自由が与えられることを期待いたします(そして『イランの地下世界』みたいな読物を本名で出版できる自由な状況の到来も)。

最後に、2024年7月、東京都知事選において現職の小池百合子氏(1952年生まれ)が3選を果たされました。

小池氏にはエジプト国立カイロ大学の学歴詐称疑惑がつきまとっており、わたしは確証こそないものの「詐称なさっているのではないか」と疑っています。「最近読んだ本393」

もし疑いどおりであれば、彼女は公職選挙法違反になるでしょう。

そして『イランの地下世界』によると、

いろいろな場所で提出が義務づけられている証明書類(たとえば、残高証明書、合格証明書、医師の診断書など)の偽造もイランではごく当たり前に行われている。(P. 250)

とのことで、

イランといえば(中略)イスラム化以前にはアケメネス朝やササン朝などのペルシア帝国が、イラン高原を中心に現在の中央アジアからアナトリア、エジプトまでの広大な地域を支配し、繁栄をきわめていた。(P. 80)

のです。

当方、往年の支配国と似た不正の慣習がエジプトにのこってしまっている可能性は高い、なので小池氏がカイロ大学の卒業証書を示されてもそれだけでは卒業したと信じがたい、同大卒業年次の逸話の収集・検証、同大の指導教官・クラスメートたちによる証言、小池氏の学力検査・語学力検査……などが必要なのではないか、と考えました。

金原俊輔