最近読んだ本703:『誰が世界を支配しているのか?』、ノーム・チョムスキー 著、双葉文庫、2025年
むかし、チョムスキー(1928年生まれ)は、わが師B・F・スキナー(1904~1990)に的外れでヒステリックな言論攻撃を仕かけました。
その顛末を、わたしは、
「B・F・スキナーの生涯」、金原俊輔 著、『長崎ウエスレヤン大学 現代社会学部紀要』9巻1号、2011年
で、紹介しました。
そんな事情があるため、わたしはチョムスキーという人物を軽く敵視しており、今回は「敵情視察」みたいな気もちで彼の『誰が世界を支配しているのか?』を手に取った次第です。
敵情視察の結果、わたしが感じた本書の短所は、
(1)情報提示に注力しすぎていて、まとまりが悪い
(2)おなじ話が何度も繰り返される
(3)すこし「陰謀論」っぽさが漂っている
(4)冒頭の「日本の読者の皆様へ(P. 7)」は、日本人読者への挨拶になっていない
……など。
しかし、上記4点ごときはたいした問題ではありません。
短所があろうとなかろうと、『誰が世界を~』はとても有益な本でした。
啓蒙されますし、知識が身につき、世界を見る目が深まります。
わたしが啓蒙されたり、知識を得たり、世界を見る目が深まったりした箇所を、これよりいくつか引用しましょう。
まず、ひとつ目。
著者は「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)と大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)(P. 270)」を解説しつつ、
NAFTAなどと同じく、TPPもTTIPも「自由」貿易協定ではない。貿易協定ですらない。主として投資家の権利を守る協定だ。(P. 270)
と、述べました。
驚きです。
当方、「TPP」というのは先進的な「自由貿易協定」と思い込んでいたからです(ならば、なぜトランプ大統領が「TPP」を反故にしたのか、理由が分りませんけれども)。
2つ目として、
イランの脅威を恐れる理由の中には、イランが「世界一のテロ支援国家」だから、というものもある。主としてヒズボラとハマスへの支援のことだ。この二つはどちらも、米国が支援するイスラエルの暴力と侵略への抵抗運動として始まった。そして、イスラエルの行なっていることは、ヒズボラやハマスが起こしたとされる、どの事件よりもはるかにひどい。(P. 365)
2025年現在のイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区攻撃を受け、世界の多くの人々があげだした憤慨の声(例:アメリカ合衆国では大学生らが反イスラエルのデモ活動を開始)につながるような文章が、すでに書かれていました。
わたしは1993年の「オスロ合意」自体が無意味な取り決めだったと考えており、事実、「イスラエルの暴力と侵略」は合意後も止(や)むことがない状況です。
最後の引用。
冷戦終結後、NATOの拡大はすぐに始まった。これはゴルバチョフへの口頭による保証を破るものだった。欧米首脳はNATO軍が「東方には1インチも拡大しない」と保証していたのだ。(中略)
まもなくNATOはドイツを越え、ロシア国境へ進み始めた。(中略)
ロシアが特に懸念するのは、NATOをウクライナまで拡大する計画だ。(P. 399)
この一節もまた、2025年現在のロシア・ウクライナ戦争に対する新たな視点を生じさせてくれます。
わたしは、ロシアが正当な戦いをしているとはさすがに思わないものの、引用文のおかげでロシア側の論理をある程度までは理解することができました。
以上、著者のチョムスキーは、母国(アメリカ)の卑劣さや残忍さを徹底的に糾弾し、また(ユダヤ系アメリカ人であるにもかかわらず)イスラエルに対する追及の手もゆるめません。
公正さと勇気をおもちのかたでいらっしゃいます。
『誰が世界を~』は過去および現在の世界情勢を把握するための必読書。
疑問符が用いられているタイトルへの回答は、ページを繰りだすやいなや、明らかになります。
金原俊輔