最近読んだ本725:『私が見た金正恩:北朝鮮亡命外交官の手記』、リ・イルギュ 著、産経新聞出版、2025年
著者リ・イルギュ氏(1972年生まれ、男性)は、北朝鮮の外交官として、おもに中南米諸国を担当されていました。
けれども「2024年7月、(中略)脱北(P. 3)」を敢行し、それ以降は韓国で生活なさっています。
彼は北朝鮮外務省において「高位級(P. 3)」だったため、同国の内情にかなり通じておられるはずで、わたしはそういう人物が執筆した上掲書は北朝鮮を知るうえで役立つ一冊になるだろうと期待しました。
その結果……。
わたしは北朝鮮に関する書籍をこれまでいくつか読んできました。
そんな当方にとって『私が見た金正恩』は、所持している知識の範囲内の事柄あるいは(知らなかったとはいえ)想定できる事柄が多かった、と感じられました。
要するに、
北朝鮮のエリート層の生活はそれほど安定したものではない。(中略)
快適で幸せな生活を送っているように見えても、ほとんどの者は、いつ、どんなことで怒られるか常に心配し、不安を抱えながら怯(おび)えた生活を送っているのである。(P. 272)
北朝鮮で今も地獄のような生活を強いられている仲間や親戚、そして2500万人の同胞(後略)。(P. 311)
なのです。
もちろんリ氏は韓国政府にはもっと深い情報を提供していらっしゃるでしょうが。
つづいて、氏が見聞した金正恩総書記(1984年生まれ)のエピソードを、ひとつ引用します。
金正恩はこう怒鳴った。
「あの通訳はどこのどいつだ。あんな通訳しかいないのか。私にちゃんとついてくることもできず、生意気にも私が次に何を話すのか知っているかのように、話を途中で何度も切った。そんなことが許されると思うのか」
私は心の中で「今日、誰か一人死んだな」と思った。(P. 249)
さいわい通訳のかたは死なずにすんだらしいです。
良かった……。
ところで、リ氏は日本に対して好意的なコメントをして下さり、また、日本人女性工作員の活動なども紹介して下さっています。
とりわけ後者はわれわれ日本人にとって非常に気になる話題でした。
北朝鮮と日本の間で拉致問題をめぐって揉(も)めるのを見て、私はその女性のことを思い出した。(P. 59)
日本政府は当然これに前後する文章から何らかのヒントを得たことでしょう。
最後に、余談です。
わたしが本書を読了して2カ月ほど過ぎた2026年1月、米国がベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領(1962年生まれ)を拘束するという大事件が発生しました。
リ氏は中南米で勤務した外交官。
すると、もしや『私が見た金正恩』内にマドゥロ大統領が登場していたのではないか?
リ氏には同大統領と接する機会があったのではないか?
わたしは改めて本書を手に取り、ざっくり再読しました。
ベネズエラについてはところどころで言及されていたものの、大統領のことは書かれていなかったです。
金原俊輔

