『労基署は見ている。』、原論著、日経プレミアシリーズ、2017年。

原氏(1968年生まれ)は元・労働基準監督官で、現在は社会保険労務士事務所を経営しておられます。

氏の労働基準監督官時代のご経験をまとめたものが本書です。
おもにブラック企業との係わり合いが記述された、生々しい内容でした。

ここ数年、過重労働により健康障害を発症させ、労災認定を受けるケースの場合、同時に監督部署の臨検監督が行われているという報道が増えている。(中略)死亡事故ということになれば、そのことの重大性から、送検するようなことも多い。電通における捜査はまさにそういうことであるし、他の地域でも、労災請求が出た時点で監督を実施し、そのまま送検したという事案も生じている。(pp.88)

女性社員がお気の毒な亡くなりかたをしたため社会的問題となっている「電通事件」も、このように、わずかとはいえ触れられていました。

勤労者および経営者が知っておくべき情報が多い一冊でした。

わたしは数十年前、「全国社会保険労務士会連合会」の機関誌編集者だったころに、用事で労働基準監督官をされているかたとお会いしたことがあります。

ご自分のお仕事に自信をもっていらっしゃる、という印象を強く受けました。

本書においても、いかに労働基準監督官の仕事が大事であるか、いかに勤労者たちを守る仕事であるか、が語られています。
みなさまプライドを抱いてお役目を遂行なさっているようです。

読了し、わたしは労働基準監督官のみならず労働基準監督署自体の存在意義を再確認しました。

話は変わりますが、著者がこの本を出版されたのは2017年3月です。

ということは原稿執筆中の時点で、世間ではすでに「ストレスチェック制度」がスタートしていました。

労務管理問題を放置すると、取り返しのつかない事態にだってなりかねない。数年来のブラック企業の烙印などの比ではないはずだ。経営にとってリスク管理は非常に重要である。そのリスクのなかに、労務管理のリスクが存在する。どんなリスクが存在するのか、その洗い出しができずに内在させてしまったら、体ごと吹っ飛ばしてしまう時限爆弾を巻き付けているようなものだ。(pp.181)

説得力あるご意見を有する著者ですので、ストレスチェック代行業務をおこなっているわたしとしては、本のどこかにストレスチェックがらみの話題も挿入してほしかった、と思いました。

金原俊輔