『愛しの富士そば』、鈴木弘毅著、洋泉社、2017年。

東京を中心に全国で116店舗展開している「名代 富士そば」。
上掲書はそのすべてのお店を食べ歩いたかたによる体験記です。

富士そばタイプのおそば屋さんには、立ち食いそば、立ちそば、駅前そば、駅そば……と、いくつかの呼称があります。
本コラムでは、以下「駅そば」の語をつかってゆきます。

著者の鈴木氏(1973年生まれ)は無類の駅そば好きだそうで、ふと富士そばの国内全店制覇を発意し、長い時間をかけてついに大願を成就されました。
大願成就にいたった勢いに乗り、今度はフィリピンへ向かわれ、著者は同国の富士そば6軒もまわった由です。

なんだか微笑ましい挑戦です。

富士そばは(チェーン店方式とはいえ)各店が独自メニューを用意しているため、上掲書はいろいろなお店の「味比べ、工夫比べ」みたいな内容になりました。

たとえば、

津田沼店以外の店舗でも一度トルネードポテトそばを食べたことがある。その時には綺麗ならせん形にはなっておらず、特厚のポテトチップスがたくさんトッピングされているようなものだった。(pp.72)

というふうに。

第3章「富士そばの半世紀:千里の道を、4店舗から」では、会社の歴史が語られており、感興を催されます。

そば好きであり、駅そばファンでもあるわたしには、満喫できる一冊でした。

ところで、著者はよく提案をなさるお人柄のようです。

池袋店の「カレーかつ丼」を褒めつつ、

子ども受けしそうな味覚でもあるので、これをベースに新感覚の「お子様ランチ」を開発できそうな気がする。サイズを小さくして、トンカツをミニハンバーグに変えて、コールスローを添えて、楊枝の旗を立てる。(pp.115)

こう思いつかれたり、そばのオリジナル・メニューを吟味していた際には、

飛躍的に盛り上がりが強まっているハロウィンはどうだろうか。カボチャ天を使って丼の中に顔を描いて「ハロウィンそば」とか。10月の1カ月間限定販売で、仮装して注文した方には温泉玉子サービスとか。(pp.193)

こんなアイデアも出されました。

そこかしこで閃(ひらめ)きをお書きになっています。

もし、富士そばが上記提案を受け、その通りのメニューを準備した場合、「客の意見にちゃんと耳を傾ける駅そば屋さん」として評判になるかもしれません。

わたしは著者の提案を読みながら、インターネットとりわけSNSが普及した社会での外食産業は顧客の要望を受けとりやすくなり、それにともない、産業側はネットの要望に応じたサービスを随時提供しなければならなくなるのではないか、と想像しました。

富士そばに関する他のエッセイとしては、東海林さだお著『偉いぞ!立ち食いそば』、文春文庫(2009年)があります。

金原俊輔