『アドラー100の言葉:人は今すぐ幸せになれる』、和田秀樹監修、宝島社、2018年。

医師であり心理学者でもあったアルフレッド・アドラー(1870~1937)。

彼は長いあいだ、同時代のシグムンド・フロイド(1856~1939)やカール・ユング(1875~1961)に比べると、地味な存在でした。

わたし自身、学生時代にアドラーの著作を数冊読んだものの、特段の感銘はおぼえませんでした。

しかし、大学院で行動主義心理学を学びだしてからはアドラー学説に行動主義との共通点を見出し、尊敬するようになりました。

行動主義心理学と(アドラーが先駆者的な位置に立つ)実存心理学は、相性が良いように思います。

なぜならば「実存」とは要するに行動を意味しているので……。

さて、昨今の日本は、かなりのアドラー・ブームです。

書店にたくさんの本が並んでいます。

どうしてなのか、アドラーの何が支持されているのかを知りたく、わたしはひさしぶりにアドラー書を手に取りました。

この『アドラー100の言葉』は、彼が語った言葉を紹介し、それを解説する形式で進んでゆきます。

たとえば、

子どものライフスタイルは、どんな仕事に就きたいかを聞けばわかる。(pp.42)

こうした発言に、

小学生の時に「将来どんな仕事に就きたいか?」と尋ねられた経験は誰もがあるはずです。この質問にどう答えるかが、子どものライフスタイルを知る上で有用だとアドラーはいいます。(後略)(pp.43)

といったコメントが付随していました。

アドラーだけではなく彼の弟子たちの言葉も含まれています。

活字が大きめで読みやすく、還暦を過ぎた身には助かりました。

読了後の感想を書きます。

わたしにはとうてい登場した言葉が読者の参考になるとは思えませんでした。

参考とすべき名言が全くなかったわけではなく、あったといえばまあ少しはあったのですが、ほとんどが読む人に強く迫るほどの言葉ではなかったのです。

また、言葉のあとに記された解説も「通り一遍」「無益」だったといわざるを得ません。

落胆しました。

本書を読んだのは時間の浪費でした。

わたしはかつて、監修者の和田氏(1960年生まれ)が日本の「ゆとり教育」に対し盛んな批判をなさっていたころ、ご批判に完全賛同で「わが意を得たり」と感じていました。

しかしながら『アドラー100の言葉』は少々手抜きのお仕事のようであり、しかもアドラー・ブームに便乗したご出版なのかもしれず、がっかりです。

アドラーの偉大さは、本書に記載された「薄っぺら人生訓」みたいな言葉をのこしたことにあるのではなく、心理学者としての主張・技法がエビデンス(証拠)をもっていた、その結果、文化や時代を超えて悩める人々に役立っている、ところにあると考えます。

金原俊輔