『保守の遺言:JAP.COM衰滅の状況』、西部邁著、平凡社新書、2018年。

西部邁氏(1939~2018)。

高名な学者・論客でしたが、2018年1月に、自殺なさいました。

上掲書は故人の「絶筆」です。

わたしには西部氏に関する知識がほとんどなく、諸著作を読んでもおらず、「保守」でいらっしゃったことすら今回初めて知りました。

『保守の遺言』は憂国の書で、日本の内政・防衛・外交を批判し、また、日本人の精神の劣化を嘆いた、重くるしい内容です。

氏は(わたしごときがコメントするのが僭越な)豊かな教養を身につけておられ、本書のあちこちで「いぶし銀」のような教養をほの見せられました。

劣等感をおぼえましたので、比較的かるい話題をひとつだけ選び、紹介します。

生前、著者は電車に乗らなくなったそうです。

理由は、

スマホ人の群れを眼にすると吐き気が催されてならないことだ。電車に乗ると、客の八割がスマホとやらを弄(いじ)り、その八割が(聞き及ぶところによると)ゲームとやらをやっているのだという。(中略)
「死んでも治らぬ莫迦(ばか)者たちに囲まれている」と思うことからくる不愉快の気分、それだけは避けたい、そうしなければ喜寿まで生きてしまった甲斐がないと思われてならないのだ。(pp.68)

とのことでした。

ここまで激烈な意見はもっていないものの、わたしは西部氏に賛同します。

わたし自身、路面電車などで近くの人がスマホをあつかいだしたら、まま、席を離れる場合があるのです。

自分は過敏なのか偏屈なのかと反省していたところ、上記の文章に接して、その種の行動をとるのがわたしのみではない事実を知り、何だかちょっと安心しました。

それにしても、むかしは車内でたくさんの乗客が本を開いていました。

著者が憂うとおり、日本人は劣化してしまったのかもしれません。

ほかでは、第3章に書かれていた「『トランプ的国家保護』の本質」が、冷静で説得力を有する分析と思われました。

金原俊輔