『天才と発達障害』、岩波明著、文春新書、2019年。

天才は医学や心理学にとって古くからの研究対象です。

これまで多数の専門文献が出ており、海外においては、

チェザレ・ロンブロオゾオ著『天才論』、改造社(1930年)

が有名(ただし、わたし自身は未読です)。

日本では、

宮城音弥著『天才』、岩波新書(1967年)

が読者をたくさん獲得し、わたしも学生時代にこの本を読みました。

残念ながら天才でないため、中身はもうおぼえていませんが……。

さて、天才の病理を考察する際に、過去は天才と統合失調症の親和性に目が向けられることが珍しくなかったいっぽう、近年に入り、天才は発達障害と関連しているのではないか、発達障害でありつつ天才的でもある人が多いみたいだ、と受けとめられるようになってきています。

すくなくとも医師や心理学者たちは上記のごとく考えています。

そういった意味で『天才と発達障害』は時宜にかなう出版といえるのではないでしょうか。

内容は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、チャールズ・ダーウィン、アルベルト・アインシュタインといった、発達障害の解説書にかならず登場してくる顔ぶればかりではなく、源義経、大村益次郎、江戸川乱歩、水木しげる、さくらももこ、などの面々も語られていました。

新味があります。

ちなみに、わたしも「大村益次郎や水木しげるは発達障害だっただろう」と想定していました。

江戸川乱歩は予想外です。

いずれにしても『天才と~』は、読者を「発達障害は不便かもしれないけれど、当事者は凡人には及びもつかない天才性を有している」との理解にいたらせる、良質な啓蒙の本でした。

書中でなされたのは歴史上の人物の事例検討だけではありません。

岩波氏(1959年生まれ)は後半、天才の存在を認識し、育て、彼ら・彼女らの能力を開花させる、日本はそうしたシステム開発をおこなうべきである、とお説きになりました。

わたしも賛成です。

天才を埋もれさせてしまうような社会に未来はないでしょう。

氏は最終ページにて、

ユダヤ人の知的水準の高さはよく指摘されるが、これは日本人にも相当あてはまる。日本人のノーベル賞受賞者はユダヤ系に比べれば少ないが、これは地理的な条件が不利であったことも関係し、また東洋系は長らく正当な評価を与えられなかったこともある。
さらに東洋の端の島国であるにもかかわらず、平安朝の物語文学の時代から現在にいたるまで、日本の文化的水準は世界の中でも一級品である。
このような日本人の持つ能力を考えれば、教育や企業におけるシステムのイノベーションは必ず達成することが可能となるであろう。(pp.251)

こう記述なさいました。

力強いまとめだと思います。

金原俊輔