『世界史の大逆転:国際情勢のルールが変わった』、佐藤優、宮家邦彦共著、角川新書、2019年。

情報通のおふたりが現今の国際情勢を詳(つまび)らかにした書です。

日本以外でテーマとなった国々は、おもに、北朝鮮、アメリカ、中国、ロシア。

さらに突っ込んで、アメリカによるエルサレムのイスラエル首都認定、ヨーロッパの脱石油傾向、AIと軍事戦略、世界のファシズム化……。

語られる内容が変幻自在そして高レベルでした。

佐藤氏(1960年生まれ)と宮家氏(1953年生まれ)どちらもが昔は外務省に勤務されていた専門家ですから、とうぜん高レベルな話になるわけです。

わたしごときの政治知識では両者の対談に追いつかず、それだけに、たいそう勉強になりました。

例をあげれば、2019年6月現在、まるで落ち着きを見せない米中の貿易摩擦について。

佐藤  いまの中国の政治は、アメリカに譲歩できないほど弱い状況ではないはずですよね。
宮家  ところが譲歩できないのは、習近平が権力集中を続けすぎたからだと思います。彼がすべての事象に関与し、権力を握っているということは、逆にいえば、すべてが彼の責任になるということです。
ご指摘のとおり、力が強いから譲歩できると考える人もいます。常識的に考えれば、ここは中国らしく、名を捨てても実をとるのがいちばんでしょう。しかし、そうすると、「力が強いはずなのにアメリカには弱いのか」という批判が予想される。(後略)
佐藤  これだけ経済も強いんだから、「金持ち喧嘩せず」で妥協すればよいのに、ということですね。(pp.75)

こうした裏側からの時勢の読みかたを示唆してくださっています。

日本の国是「非核三原則」に関しては、

宮家  とりあえず「非核三原則」をどう考えるという議論だけは、しなければならない。結論は変わらなくても、少なくとも「持ち込ませない」の原則だけは緩めて、「二原則」か「二・五原則」にすべきか否かという話を国会などでする必要がある。
佐藤  「持ち込ませない」といったところで、アメリカは持ち込んでいるかどうかをいいませんからね。
宮家  それは、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を積んだ原子力潜水艦を寄港させればわかります。これを容認すれば「二・五原則」です。さらに、核弾頭つき巡航ミサイルを日本に配備するとなると「二原則」。そのボタンを一緒に押す権利を日本政府がもてば「一・五原則」になる。(後略)
佐藤  現実のほうが先に行きすぎていますからね。「ニュークリア・シェアリング」まで踏み込んで「一・五原則」にするなど、もう少し早い時期に議論が必要でした。(pp.100)

原爆被爆地・長崎市の市民(かつ被爆2世)として個人的には心穏やかではいられない議論ながら、国防のため、佐藤氏・宮家氏が述べられた案を無下に退けたりせず耳を貸すべき、と考えます。

ところで、わたしは冒頭「現今の国際情勢を詳らかにした」と書きました。

しかし『世界史の大逆転』は2019年2月に出版されたせいで、出版より後に起こった、世界貿易機関(WTO)裁決にて日本が韓国に逆転敗訴した件、令和時代のスタート、トランプ大統領の来日、香港における大規模デモ、安倍首相のイラン訪問、などの事項をあつかっていません。

それは仕方なきこと。

この種の本はつぎつぎに最新作を読みつづけてゆかなければならないみたいです。

金原俊輔