最近読んだ本342

『ヘンリー王子とメーガン妃:英国王室 家族の真実』、亀甲博行著、文春新書、2020年。

本来でしたら、イギリス王室に、アフリカ系の血が入っており、貴族ではなく芸能界出身の庶民で、夫より年上である、ご自身もご両親も破鏡を経験した、アメリカ人女性、が嫁がれたことは慶事でした。

国籍・階級・職業・人種・年齢・離婚歴などの厚い壁を突き崩すような動きですから。

ヘンリー・チャールズ・アルバート・デビッド王子(1984年生まれ)とレイチェル・メーガン・マークル氏(1981年生まれ)のご結婚は、2018年5月。

しかし、2020年1月に、

ヘンリー王子とメーガン妃の「主要な王族からの引退宣言」(後略)。(pp.256)

が発表されました。

ご夫妻は、

2020年の春以降に「殿下」「妃殿下」の称号を返上したうえで、一切の王室の公務から退くことになった。(pp.257)

何があったのでしょうか?

率直にいってわたしは深い関心を抱いていないものの、たまにはこの方面の読書もおもしろいはずと考え、本書を手に取りました。

そもそも当方はイギリスの若い王族が自己都合で引退できる事実を知りませんでしたし。

著者(1974年生まれ)は、日本テレビ報道局の前ロンドン支局長です。

丹念な取材をなさいました。

ただ、『ヘンリー王子とメーガン妃』は、王子・妃に特化した内容ではなく、むしろ「イギリス王室の現状展望」みたいな感じの読物です。

わたしには参考になりました。

無縁な世界をたゆたえました。

「イギリス王室ファン」だったら、いっそう楽しく通読されるでしょう。

書中、気になったエピソードがふたつあったので、紹介します。

ひとつめ。

かつてヘンリー王子は英国軍に所属されていました。

攻撃ヘリコプターAH-64アパッチの搭乗員となっていたヘンリー王子は、再びアフガニスタンに派遣された。(中略)
地上部隊を助けるため、タリバンの兵士を射殺したことを認めた。
「私たちの友軍に危害を加えようとしている奴らがいれば、攻撃します。仲間の命を守るために、他の人間の命を奪う。私たちの部隊はそういう考えのもと動いています。みんなそうやっていました」
王子の「告白」は大きく報道された。(pp.130)

軍人として当然のご決意を基礎に当然の働きをなさったわけですが、王室を離れられた以降、警備が手薄になったところを敵側が報復してくる可能性があるのではないか、と心配になります。

もうひとつは、母親(ダイアナ元妃)の事故死に関する件。

ヘンリー王子は「テレグラフ」紙のインタビューにも応じ、過去にカウンセリングを受けていたことを告白した。ヘンリー王子は母の死から長い間目を背(そむ)け続け、20代後半になって「錯乱状態」になってしまったという。(中略)
辛い記憶を告白したことにより、自分を取り戻すことができたという。(pp.128)

イギリスはアメリカ合衆国に次いで行動療法が盛んな国ですので、王子は左記療法をお受けになられたと想像します。

行動療法家のわたしは、ヘンリー王子が回復された理由は、おそらく文中で語られている流れによるものではなかっただろう、こう臆断しました。

いずれにしても「自分を取り戻すこと」ができて良かったです。

金原俊輔

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