最近読んだ本433
『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』、朝香豊 著、WAC BUNKO、2021年。
これまでわが国において、中華人民共和国の経済的な崩壊を予測する書籍が多数出版されてきており、しかし、いまのところ中国に崩壊は起こっていません(だから上掲書のタイトルに「それでも」が付けられたのでしょう)。
わたし自身、その種の本を少なからず読み、おかげで、かの国の政府が発表するデータはすべて偽りであって、人口からGDPにいたるまで信用できるものはない、という事実を知っています。
当方は学術界に連なる一員として、データが不正確であるのなら崩壊するもしないも予想などできるはずがないではないか、予想できない事柄ならば予想しないのが社会科学に携わる者の正しい姿勢ではないか、と疑問をおぼえていました。
とはいえ、どの著作の執筆者も、可能なかぎり確かな情報に基づいた推測、状況と照らし合わせることができる史実、などを踏まえつつ議論を展開なさっており、データが乏しいなかで対象から何かを見出そうとする離れ業に接し、勉強になっています。
さて、朝香氏(1964年生まれ)もまた、中国指導者の思惑・政治体質・国民の民族性を判断材料にしたうえで、考察を進められました。
参酌すべき読物です。
今回、わたしが特におどろいた情報は、
朱雲来氏は2018年に非公開の講演の席で中国の2017年末での債務の合計が6000兆元(1京円)をすでに超えていたと語っていたことが表沙汰になって、大騒ぎになりました。(中略)
中国の政府、企業、個人の債務の合計値のことを言っています。(pp.234)
中国の総債務残高はGDPの1500%に達しているということになり、これは世界的に見てもありえないくらいに巨大だということになります。(中略)
2017年末のことであり、その後はこれがさらに拡大しているのは間違いないところです。(pp.236)
まさに「中国経済は満身創痍(pp.250)」みたいでした。
いったいどう対処するつもりなのでしょうか?
中国がもくろむ世界制覇には申すまでもなく大反対ですが、同国の経済が傾いた場合、日本におよんでくるであろう余波は想像を絶する深刻さでしょうから、ぜひ何とかしてほしい、すくなくともソフト・ランディングで倒れていってほしい、と願っています。
朝香氏ご自身は「この状態からさらに債務を拡大させる(pp.239)」あるいは「不動産バブルを拡大させる(pp.240)」という、ふたつの解を提示。
理由を閲読したのち、賢明で実効性もあると、納得がゆきました。
別件として、
トランプ側の要求には、中国が共産党体制であることを前提とした場合に絶対に飲めない条件があったのは事実です。その中でも決定的だったのは、人民元とドルとの自由な交換を求めたことです。こんなものが実現したら、その時点で中国は崩壊です。(中略)
不動産バブルは崩壊し、今まで積み上がってきた巨大債務が中国経済を抹殺します。(中略)
できもしないことを口約束してきたのが中国でした。この中国の矛盾に対して、「言った約束はちゃんと守れよ!」と、トランプは正面から切り込んでいったのでした。(pp.152)
米国のトランプ前大統領は、やはり凄みを具備した政治家だった模様で、日本との関係とて悪くはなかったし、彼がなつかしくなります。
金原俊輔