最近読んだ本523:『決戦! 株主総会:ドキュメント LIXIL 死闘の8カ月』、秋場大輔 著、文藝春秋、2022年
日本の住宅設備機器メーカーであるLIXILグループ。
傘下に約270社のグループ会社を抱え、150以上の国と地域で商品やサービスを提供している。2022年3月期の売上高は1兆4285億円、従業員は全世界で約6万人にのぼる。(pp.15)
こんな大企業の社長兼CEO瀬戸欣哉氏は、2018年10月、創業家の一族でLIXILグループ取締役会議長でもある潮田洋一郎氏から、突然の電話を受けました。
瀬戸氏がローマ出張をしていたときです。
潮田氏の用件は、
「瀬戸さん、急な話だけれど指名委員会の総意で、あなたには辞めてもらうことになりました。交代の発表は4日後の10月31日です。(後略)」(pp.14)
いったん通告を受け入れた瀬戸氏でした。
しかし、のちに上記が「指名委員会の総意」などではなかったと知り、ご自分を追い落とすために潮田氏がウソをついた事実に気づいて、悩んだすえ、反撃を始めます。
こなた潮田氏も「瀬戸の事実上の解任(pp.131)」方策を連発しだしました。
そして、2019年6月、株主総会にて両者最終対決の局面を迎えます。
『決戦! 株主総会』は「瀬戸氏および瀬戸派」VS「潮田氏および潮田派」の生々しい闘いを描いたビジネス・ドキュメントでした。
「コーポレートガバナンス(企業統治)(pp.8)」が主題。
日本経済新聞社に所属していらした時期がある秋場氏(1966年生まれ)が、豊富な専門知識を用い、関係者多数への取材を十二分におこなわれたうえで、執筆されています。
書中で描述された、LIXIL社内外での緊迫感あふれる攻防も、念には念を入れた根回しも、右顧左眄(うこさべん)も、組織においてあまねく見られることでしょうし、そうしたやりとりを経験済みの読者諸氏にとって身につまされる内容だろうと想像しました。
ただ、わたしの場合、「特定企業で起こった内紛に通暁してもな……」という思いが生じ、熱心には読み進めなかったです。
いっぽう、主人公・瀬戸氏のお人柄はなかなかに魅力的。
事業を手堅く発展させ、信頼を受けつつ部下たちを牽引してゆく、リーダーシップあふれる経営者の典型像が提示されていると感じられます。
また、
瀬戸が本題に切り込んだ。
「会社に臨時株主総会の開催を請求するのに伊奈一族も協力してもらえませんか」
伊奈は答えた。
「おやすいご用ですよ」
瀬戸は伊奈の即答に拍子抜けし(後略)。(pp.163)
「LIXILグループの創業家の一つである伊奈家(pp.161)」の一員、伊奈啓一郎氏が、まるで小説か映画に出てくるような善玉キャラでいらっしゃり、わたしは好意を抱きました。
金原俊輔