最近読んだ本610:『職場のハラスメント対策 Q & A』、森謙司 著、経済法令、2020年
上掲書は、セクシャルハラスメント・パワーハラスメント・マタニティハラスメントをおもな対象とし、それらの態様、種々の調査結果、防止策、関連法律、被害者への法的支援、などを解説したものです。
読みやすく参考になる実用書でした。
著者は弁護士。
産業界の三大ハラスメントと呼ばれるセクハラ・パワハラ・マタハラがらみの弁護活動が豊富でいらっしゃるようです。
カウンセラーであるわたしの場合、これまでセクハラやパワハラのご相談をいただくことが多かった関係で、左記ふたつについてはあれこれ学び、一定の経験も有しています。
反面、マタハラのご相談はほぼなかったため、今回『職場のハラスメント対策~』を通し初めて系統だった知識を得ました。
新知識のひとつに、
マタハラには、制度等の利用への嫌がらせ型と、状態への嫌がらせ型の2つがあります。(pp.87)
おそらくすでに一般的になっている区分なのでしょうが、恥ずかしながら、わたしは存じていませんでした(ふたつの定義および具体例を読み「果たして分ける必要があるのだろうか?」と懐疑を抱きました)。
ところで著者は、ハラスメント全般で対応側が気をつけるべき件として、
パワハラの相談があった場合に、「お前が使えないから悪いんだ」とか、セクハラの相談があった場合に、「嫌だったのに断らなかったあなたが悪い」、「あなたの服装が挑発的だったことに原因がある」などといった担当者による傷口に塩を塗るような発言やプライバシーに対する配慮を欠くような発言による二次被害(セカンドハラスメント)が生じないように注意することは言うまでもありません。(pp.113)
事実、わたしが知るだけでも「セカンドハラスメント」をお受けになり傷つかれたかたがたは珍しくありませんので、大事なご指摘をしてくださったと感じます。
もうひとつ引用すると、
企業はメンタルヘルス不全の従業員の出勤を拒否できる場合があります。しかし、このような対応は従業員の理解を得られない可能性もあり、企業と従業員との関係が悪化したり、他の従業員にも悪影響が及ぶ可能性があります。(pp.133)
弊社のご契約先企業で当該権利を悪用なさったところはないものの、出勤拒否を検討され、検討中にわたしに意見を求めていらしたケースは複数ありました。
企業は治療機関でないため不調の従業員の対処に慣れておらず、いっぽう、完全に治ったうえでの出勤というのはいつそこに至るかが分らないわけで、ご判断に迷われるのです。
ハラスメントのせいで精神の不調をきたされた事案は、職場の対応がより難しくなります……。
以上、本書は働く人すべてに有用ながら、とりわけ、いまや国内の全事業所が法的義務として設置しなければならない「パワハラ相談窓口」のご担当となっている皆さまに有用、と言えるのではないでしょうか。
わたしがしばしばカウンセリングで伺う深刻な問題として、カスタマーハラスメントがあります。
著者に『職場のカスタマーハラスメント対策 Q & A』を執筆していただきたいと思いました。
金原俊輔