最近読んだ本634:『心の病気はどう治す?』、佐藤光展 著、講談社現代新書、2024年
上掲書は、
精神医療界のオールスターチームによるメンタルヘルス向上のためのガイドブックです。回復に役立つ知識から社会的課題を解消するヒントまで、ありったけの情報を盛り込みました。(pp.3)
読んでみると、引用文どおりの内容でした。
著者(1967年生まれ)は「医療ジャーナリスト(pp.21)」でいらっしゃいます。
8名の精神科医を訪ねられ、インタビューをおこない、医師諸氏の思いや実践をつぶさに聞き取り、『心の病気はどう治す?』で彼らの話を紹介してくださいました。
本書によれば、医師の皆さまに共通する危機感は、
薬にばかり頼ってきた精神医療が袋小路に入り込み、史上最大級のピンチに直面している(後略)。(pp.3)
こんな状況ですから、銘々(めいめい)薬に代わる取り組みを模索なさっているわけです。
薬に代わる取り組みとは、要するにカウンセリングもしくはカウンセリングに近い取り組みであり、日本内外のカウンセラーたちがずっとおこなってきているもの。
その結果、カウンセラーにとってはさほど目新しくない情報が、書中いたるところで語られました。
典型的だったのは、斎藤環氏(1961年生まれ)が展開しておられる「オープンダイアローグ(開かれた対話)(pp.84)」です。
これはフィンランドで創案された「薬よりも対話に重きを置く(pp.84)」関わりかたで、
ケロプダス病院のスタッフが取り組んできた家族療法をベースにしています。「本人がいない所でその人の治療方針を決めない」という考えが1984年に生まれ、この考えを核として手法が確立されていきました。(pp.85)
家族療法はカウンセラーが中心となって開発した手法。
対話の最中に治療チームのメンバー同士が、患者の話を聞いてこころを動かされたことや、浮かんできたイメージ、アイデアなどを話し合い、それを患者が間近で聞く機会(リフレクティング)も設けます。(pp.86)
こちらもほぼカウンセリング的なやりとりと言えます。
ただし「治療チーム」の「話し合い」を「患者が間近で聞く」のは斬新と感じました。
フィンランドでオープンダイアローグを導入した地域では、服薬が必要となる統合失調症患者は35%(通常治療群は100%)にとどまりました。また、2年間の再発率は24%(通常治療群は71%)、2年後の精神症状残遺率は18%(通常治療群は50%)、障害者手当の受給率は23%(通常治療群は57%)と目覚ましい成果を上げました。(pp.91)
すごい効果です。
「日本に限りませんが、ほとんどの精神医学の教科書に『統合失調症はカウンセリングや精神療法では対応できず、薬物療法か電気ショックか入院療法しかありません』と断定的に書いてあります。99%の精神科医はそういう教育を受けていますから、自分もそのドグマのもとでやってきて、(後略)」(pp.95)
当方自身、同様の「ドグマのもとで」活動してきました。
浅学非才を反省します。
このオープンダイアローグ、素晴らしいし、わたしは興味をもったのですが、実施にあたっては、
家族、友人、会社の同僚らを交えたオープンな対話を、ほぼ毎日60分から90分程度、最大2週間を目途に繰り返していきます。(pp.86)
とのこと。
まず、上記だけで本当に統合失調症が良くなるなんて(かなり有効だというデータの裏付けがあるにしても)にわかには信じられません。
もうひとつ、「毎日60分から90分」を「2週間」おこなうためには料金を高く設定しなければ臨床現場への導入が困難、しかし、それをやると患者・クライエントのかたがたが利用しづらくなってしまうでしょう。
悩ましい……。
別件です。
認知行動療法で高名な大野裕氏(1950年生まれ)の談話。
「アントニオ猪木さんがよく、『元気があれば何でもできる』と言っていました。でも、認知行動療法では逆の見方をします。『元気があるからやれる』のではなく、『やるから元気が出る』のだと。元気が出るまで待っていては、いつまでも元気が出ないかもしれません。(後略)」(pp.121)
賛同します。
言及されているのは認知行動療法の「見方」ではなく森田療法の「見方」なのですが、「WHO(世界保健機関)」は森田療法を認知行動療法の一種と分類していますので、間違いではありません。
金原俊輔