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『フラッシュ・ボーイズ:10億分の1秒の男たち』、マイケル・ルイス著、文春文庫、2019年。

読んで良かった……。

この上ない読みごたえを経験させてもらえる重厚なノンフィクションでした。

主人公は日系カナダ人ブラッド・カツヤマ氏(1978年生まれ)。

男性です。

彼が無茶苦茶カッコいい。

同氏は、アメリカ合衆国ニューヨークのウォール街で株式トレーダーとして働いていたときに、ある謎に遭遇しました。

そして、謎の正体を追究してゆくなかで、長らく姿を隠していた巨悪の存在に気づきます。

正義の闘いを決意し、勤務先の投資銀行を退職した「カツヤマは、七人の侍よろしく、人集めを始める。(pp.223)」。

全員が参加するとブラッドに答えたが、何に参加するのかはまだ判然としていなかった。(pp.226)

こうした状況下、一癖も二癖もある顔ぶれが結集。

皆の士気は高く、いよいよ闘いの火ぶたが切られる……。

という展開です。

2001年の「アメリカ同時多発テロ事件」や2008年「リーマン・ショック」も関与する、スケールが壮大な内容でした。

なかでも印象的だったのは、人種を超えた、人と人とのつながり。

カツヤマ氏の仲間たちが彼を心底信頼しており、まさに、

黒澤明監督『七人の侍』(1954年)

を連想させる逸話も紹介されて、日本人読者にはジーンとくるものがあります。

氏はすごい人望・リーダーシップをおもちなのでしょう。

ところで、わたしは株式売買をおこなったことがなく、知識も全然なく、そのため『フラッシュ・ボーイズ』では理解困難な箇所が多々出てきました。

数回にわたって「超高速取引」の意味が説明されていたにもかかわらず、恥ずかしながら咀嚼(そしゃく)できていません。

それでも本書は圧倒的なおもしろさです。

様相の異なる注文が、初めてゴールドマン・サックスから送られてきたのは、2013年12月19日の午後3時9分42秒、662ミリ秒、361マイクロ秒、406ナノ秒のことだった。そのときIEXのワンルームのオフィスにいれば、何か今までと違うことが起こっているのにいやでも気づいただろう。コンピューターの画面がジルバを踊り、情報が今までとはまったく違う形で市場へ流れこむ。ひとり、またひとりと、職員が椅子から腰を浮かせた。(pp.346)

引用のくだりに入った途端、わたしは感動で笑いだしたほどでした。

著者ルイス氏(1960年生まれ)が有される突出した文才を嘆賞いたします。

金原俊輔

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