最近読んだ本315

『日中と習近平国賓』、遠藤誉、田原総一郎共著、実業之日本社、2020年。

わたしはこれまで遠藤氏(1941年生まれ)が書かれた本を数冊読みました。

田原氏(1934年生まれ)については、お名前やお顔は存じあげているものの、ご著書を紐解いたのは今回が初めてです。

両者の討論を記録し文字に起こした一冊が『日中と~』で、討論テーマは「2020年、中華人民共和国の習国家主席を日本へ国賓としてお招きするのは是か非か」でした。

遠藤氏は「非」、田原氏は「是」。

どちらも旗幟鮮明です。

討論中、遠藤氏がかなり攻撃的な口調になる場面が多く、田原氏のほうは徹頭徹尾冷静でした。

たとえば、アメリカと中国の外交を語り合っていらした際、

田原  トランプのアメリカは、中国に大妥協しているじゃないですか。ペンス副大統領の演説だって、一年前とは違って、腰砕けで、中国を認めている。
遠藤  何を仰っておられるんですか。次章で詳細に述べますが、ペンス演説の基本は激しい対中攻撃です。ただ最後の項目だけが対中譲歩的になっているに過ぎません。(後略)(pp.88)

主題である国賓招聘に関しては、

遠藤  私は早くから反対しています。ただ、私ごときが一人で反対しても、なかなか世論は動かなかった。しかし最近になって自民党議員の中にも反対の声を唱える人が出てきました。(後略)
田原  私は何度も言いましたように、習近平が国賓として来日することには賛成です。何が悪いと言いたい。その理由も述べてきました。そもそも、いま中国では対日感情がよくなっている。そのチャンスを逃すのは良くないでしょう。
遠藤  そこからして、そもそも大きな勘違いだと思います。中国共産党にとって、思想統制や世論誘導こそは最大の武器なのです。(中略)いま習近平は日本を必要とするので、その方向に世論誘導をしているのです。そのようなことは中国共産党にとっては朝飯前です。(pp.216)

中国政府が複数の日本人をスパイ容疑で拘束している件。

田原  中国に対して、抗議すべきところは抗議すべきです。
遠藤  そのような政府答弁のような回答しか戻ってこないのは、実に残念です。田原さんもジャーナリストでしょ? なぜ「これでは学者・研究者は全員スパイ容疑になってしまう。ジャーナリストとしても許せない」というようなナマの声を発しないのですか? (pp.249)

このように全体を通じ真剣勝負のごとき意見交換がおこなわれました。

そんな対決を敢行されたおふたりに頭が下がります。

討論の結果、遠藤氏が知識および論理性において圧倒的に田原氏を凌駕し、相手を論破されました(にもかかわらず、田原氏はご自分のお考えを変えませんでした)。

わたしも遠藤氏のご主張に説伏されたひとりです。

読者を「日本は中国に対して弱腰になってはいけない」という思いにいたらせる読物でした。

さて、その習主席招待。

遠藤氏が述べられた諸理由とは無関係に、2020年2月現在の「新型コロナウイルス」問題が原因となり、延期の可能性を呈しだしてきています。

もしかしたら中止になるかもしれません。

遠藤氏・田原氏による言説の闘いが水泡に帰してしまうわけではないとはいえ、なんだか本書が肩透かしをくらったみたいな状況で、少々お気の毒に感じます。

金原俊輔

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