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『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』、佐藤智恵 著、日経プレミアシリーズ、2020年。
アメリカ合衆国、ハーバード大学経営大学院。
MBA(経営学修士号)を発行する高等教育機関として、おそらく世界で最も充実しているところでしょう。
そのハーバードにおいては、いろいろな日本企業が研究され、講義の教材としても用いられているそうです。
わが国の企業が所持するどんな側面が教授陣・院生たちの探求心をとらえて離さないのか、著者の佐藤氏(1970年生まれ)は同校を訪ねられ、既述の疑問を晴らすべくインタビューを実施なさいました。
インタビュー結果をまとめたものが本書です。
ホンダ、コマツ、日清食品、リクルート、亀田製菓、ソニー、トヨタ、こうした高い知名度をもっている大手に加え、ディスコ、アストロスケール、といった、あまり一般的に知られているわけではない会社も登場してきました。
うち、ホンダ社では「ホンダジェット」事業が成功し、「2017年、2018年、2019年と3年連続で小型ジェット機の市場で世界第1位(pp.40)」のシェア獲得にいたったとのことです。
なぜホンダは、スーパーカブ、シビック、ホンダジェットなどの破壊的イノベーションを継続的に生み出せるのだろうか。
ピサノ教授はホンダには「新しいアイデアを常に試してみる社風」「イノベーションを何よりも重視する企業文化」があるからだと指摘する。(pp.49)
コマツ社は、昨今各国で重視されている「IoT」の先駆け的な「コムトラックス」なる標準装備を開発しました。
その理由をシー教授は次のように語る。
「コマツがコムトラックスを開発できたのには、もともとデータを重視する企業文化があったことも大きかったと思います。(中略)顧客の声を聞いてまわり、マニュアルでデータを収集し、いかにデータが付加価値をもたらすかを知っていました。(後略)」(pp.64)
引用に見られる、創意工夫を重んじ顧客を大切にあつかう文化が、著者がインタビューをとおし導きだされた日本企業の「基本」みたいです。
ところで、インスタントラーメンによって「世界の人々の食習慣まで変えてしまった(pp.110)」日清食品が、いま難問に遭遇している由でした。
「食品添加物を使わないでインスタントラーメンをつくる技術を開発するのか。あるいは、健康問題よりも貧困問題がより深刻な発展途上国で、積極的に販売していくのか。(後略)」(pp.124)
つづいて、別の章に書かれていた、
オフェク教授は、文化遺産の中でも特に日本の食文化に注目している。
「今、世界では、健康志向が強まっています。『日本食は健康に良い』というイメージはすでに定着しています(後略)」(pp.270)
上記ふたつの文言から、わたしは30年ほど前の、小さなエピソードを思いだしました。
アメリカの精神科医療施設でインターン勤務をしていた際、同僚の白人女性が毎日、昼食時に日本製カップラーメンを食べていたのです。
理由を尋ねると、彼女は「安いし、おいしいし、和食は健康に良くて太らないって聞いたので」こう答えました。
本人が2021年現在も、ご健康、普通体型でいらっしゃいますよう、遥かな日本より祈念いたします……。
『ハーバードはなぜ~』を読み終え、いちばん当方の心にのこった情報は、エドモンドソン教授が提示した管理職者へのアドバイス、
「心理的安全性を高めるためのリーダーの正しい行動」として、次の8点を挙げている。
1 直接話をしやすい雰囲気をつくる
2 自分が今もっている知識の限界を認める
3 自分もよく間違うことを積極的に示す
4 メンバーの意見を尊重する
5 失敗を罰せずに学習する機会であることを強調する
6 具体的ですぐに行動に移せる言葉を使う
7 「やっていいこと」と「やってはいけないこと」の境界線をはっきりさせる
8 「やってはいけないこと」をやってしまったメンバーには公正に対処する(pp.230)
これでした。
小なりといえども、わたしとて会社を経営する立場、肝に銘じておきます。
金原俊輔