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『中国「見えない侵略」を可視化する』、読売新聞取材班 著、新潮新書、2021年。

「読売新聞、グッジョブ!」

これが本書を読了した当方の感想です。

中華人民共和国が日本(だけでなく、世界の多数の国々)を侵食している現況を、取材や各種資料それに海外発の情報をまじえつつ告発した、重要な作品でした。

この浸食、科学技術、軍備、政治経済、文化など、幅広い領域にわたっています。

上記問題については他のいろいろな書籍でも指摘されており(例:「最近読んだ本281」)、懸念している日本人はすくなくないはず。

そんななか、『中国「見えない侵略」~』の意義は、わが国のいわゆる「三大紙(読売新聞・朝日新聞・毎日新聞)」のひとつがしっかり事態に向き合い警鐘を鳴らしてくれた点にあります。

新聞は、危険がせまっていることを人々に伝える「炭鉱のカナリア」的な責任を負っていると考えられ、読売新聞がみごとに日本国民への責任を果たしました。

書中、あまたの深刻な話が登場したのですが、当コラムでは「千人計画(pp.8)」を紹介しましょう。

千人計画とは、世界トップの科学技術強国を目指して海外から優秀な人材を集める中国の国家プロジェクトだ。(中略)
読売新聞は2021年元日の一面トップ記事で、少なくとも44人の日本人研究者が20年末までに、千人計画に参加したり、千人計画に関連した表彰を受けたりしていたと報じた。(中略)
44人の出身は、東大や京大など国立大の元教授が多かった。(pp.11)

先日(2021年8月)も、ノーベル賞受賞すら取りざたされている高名な日本人学者が中国の研究機関に移籍なさったことが、世間の話題になりました。

ご移籍が千人計画と無関係とは思えないです……。

なぜ、われわれは既述の動きを憂慮すべきなのか?

千人計画の怖さは、外国人研究者の研究成果を中国自らのモノ、つまり「メイド・イン・チャイナ」にしてしまうところにもある。(pp.21)

しかも、同計画で得られた先端技術は、

日本人研究者本人や周りにいる中国人たちが軍事転用をするつもりはなくても、中国では軍民融合戦略に加え、国民や企業に国の情報活動への協力を義務付ける「国家情報法」が施行されている。軍事転用などのリスクの高い機微な技術は当然、中国当局に狙われると考えなければならないだろう。(pp.20)

おだやかでありません。

以上を受けて、

米国の科学者で作る民間の諮問グループ「ジェイソン」は19年12月、国立科学財団の委託を受け、「基盤的研究の安全保障」と題した報告書をまとめた。(中略)
「米国の外国人研究者たちが母国の研究機関や政府のプログラムに参加していることは無視できない。これらの行為は、米国の基盤的研究活動への脅威となっている」
同レポートは、中国の千人計画を念頭に、学術界に向けてこう警鐘を鳴らし、学術界で広がる「外国の影響」への対策を提言している。(pp.31)

米国では、外国との共同研究や資金受け入れの透明化を徹底し、安全保障上のリスクを取り除く取り組みが進んでいる。(pp.37)

いっぽう、日本は、

危機感が薄く、千人計画への参加に関する規制は遅れている。(pp.37)

日本の学術界は、こうしたリスクを回避する問題意識が欧米に比べ希薄だった。(pp.40)

という残念な態勢です。

であるならば、

現状のままでは、日本の大学は技術流出に甘いと、米国などから懸念をもたれかねない。(pp.39)

こうなってしまうでしょう。

まず日本に必要なのは中国にたいする強い「危機感」をもつこと。

危機感に基づいたうえで、断固、種々の対策を講じてゆかねばなりません。

読売新聞取材班は、

軍事的な圧力を強めようとしてきた時、「日本にちょっかいを出したら痛い目に遭うぞ」と思わせるだけの防衛力を整備し、毅然として守り抜く覚悟を持つことが欠かせない。経済面で締め付けを受けたとしても、国民生活に支障を来さないようできるセーフティネットを築いておかねばならない。無防備に日本の技術を流出させてしまうことなど言語道断である。(pp.237)

かくも踏みこんだ提言をお書きになりました。

わたしは同取材班の憂国の情に感じ入りましたし、彼ら・彼女らに深謝の意を表したく存じます。

金原俊輔