最近読んだ本536:『読書の裏側:千夜千冊エディション』、松岡正剛 著、角川文庫、2022年
猛獣が肉に食らいつき咀嚼して全栄養を吸収するかのように、松岡氏(1944年生まれ)は本に食らいつき咀嚼され内容を吸収なさいます。
その読書量および知識の幅広さは現代日本最高峰レベル、ただただ感服のほかありません。
上掲書内のある箇所にて、同氏は斎藤昌三(1887~1961)という(わたしが知らなかった)「書物好き(pp.363)」な人の異才ぶりを、
まあとにかくとんでもない男だ。(pp.368)
こう評されていますが、「とんでもない男」なのはご自身とて同様でしょう。
氏の蔵書数は、じつに「8万冊ほど(pp.79)」……。
とんでもないです。
さて『読書の裏側』は、出版界・書評界に、
先行する名人や達人がいる。先達や目利きや玄人がいる。その轍(わだち)のあとを辿(たど)ること(後略)。(pp.443)
を、目的とする読物でした。
読書人のための指標のような作品です。
特徴は、
などに比べ、松岡氏の箴言(しんげん)や先人たちの箴言に溢(あふ)れている点。
例をあげれば、
読書がおもしろくなるには、本だけ選ぼうとしてもダメなのだ。(中略)
冷蔵庫の中や動物園の生き物を観察するクセをもつとか、気になるニュース、たとえば猪瀬都知事に5000万円を貸した徳洲会について報道を鵜呑(うの)みにせずにもっと詳しく知ってみようとするとか、アイソン彗星が太陽近くで消えたのはどうしてだったのかとか、そういう気になるイシューに対する好奇心を旺盛にさせておくのが、実は読書のトリガーが起動する恰好の準備状態を育んでくれる。(pp.87)
別の例として、
学術論文には名著というものはあるが、名文は少ない。それが相場だ。(pp.92)
他のかたがたの言葉も頻出し、たとえば、著者は(やはり当方が知らない)竹田篤司(1934~2005)が述べた3つの戒めを紹介、
第一に、現状の国語を符丁として使っていると、その人格は解体するだろう。第二に、ケータイによって他者を締め出しているうちに、諸君は世界を喪失するだろう。第三に、〇×式こそ諸君の思考を破壊して、世界を衰退させていくだろう。(pp.234)
そののち「これはようするに、もっと面倒な本を読めということだ(pp.234)」と解説してくださいました。
『読書の裏側』は、冗長さが一種の魅力となっており、わたしはページを繰りつつ「この雰囲気、だれかの書きかたに似ている」と感じ、それが植草甚一(1908~1979)であることに気づきました。
植草の文章も、彼が読了した本のあまりの多さ、知識の膨大さの結果、良い意味で冗長。
むかし、和光大学ラグビー部練習終了後、小田急線の座席で植草書をひらき、降車駅に到着するまで情報の密林の中をさまよった日々を思いだします。
金原俊輔