最近読んだ本714:『出光佐三:人生と仕事の心得』、別冊宝島編集部 編、宝島社新書、2025年

上掲書は、出光興産の創業者である出光佐三(いでみつ・さぞう、1885~1981)の、人柄および業績を記した評伝です。

佐三はすごい人物でした。

彼が約95年の生涯で成し遂げたことは多々あり、一例は、

全国の給油所数3000か所を突破し、従業員数も終戦直後の1000人から7000人近くにまで数を増やした。(P. 177)

有能な経営者だったのです。

彼が成し遂げたことの圧巻として、「日章丸事件(P. 155)」が挙げられるでしょう。

これは、世界有数の産油国だったイランが、1951年、イギリスの支配を拒絶して石油を国有化。

怒ったイギリスが「軍艦をペルシャ湾に派遣。さらには、イラン石油のボイコットを、世界の石油会社に(P. 154)」促しました。

このとき、佐三は「極秘裏に巨大タンカー・日章丸二世を差し向け(P. 155)」、船はアバダン港に到着し、

日章丸はイランの人々の熱烈な歓迎を受けて入港し、この快挙は瞬く間に世界中に知れ渡ることとなった。イギリス海軍を恐れず、堂々たる行為に出たこの出光の決断と行動は、全世界を驚かせた。(P. 156)

そのおかげで「ガソリン価格は下がり、消費者にとっても大きな利益をもたらした(P. 157)」由です。

本書では、佐三のこうした、巨大な相手であっても臆せず立ち向かう闘争心、失敗を恐れない前向きな性格が、幾度も描述されました。

佐三の同時代には、松下幸之助や本田宗一郎など、昭和のカリスマ経営者が幾人もいます。(P. 145)

引用文に載っているみなさんは全員が明治生まれでいらっしゃり、明治生まれのかたがたには一本芯が通っている人が多いという気がいたします。

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以上、『出光佐三』は主人公に対する敬意が生じ、ビジネスへの関心が刺激される良書でした。

しかし、文章にやや箇条書きっぽさがあって、当方、読みながら「もうちょっとくわしく書き込んでほしい」と感じる箇所が少なくなかったです。

たとえば、第二次世界大戦中に、

残念ながらフィリピン・レイテ島での21人を最多として、計27人の出光社員が外地で命を落としている。(P. 114)

これだけで済ませて良い話ではないでしょう。

また、敗戦直後の佐三のエピソード、

中国大陸の支店に対しては「中国人従業員に可能な限り給料と退職金を支払うように」という指示まで出していたのである。(P. 123)

ここも、指示が正しく守られたのかどうかを深堀りしてほしかった、と思いました。

水木楊(1937~2021)によるコラム「今求められる出光佐三の反骨精神(P. 142)」のほうが簡にして要を得ていました。

金原俊輔