『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい:人生100年時代の個人M&A入門』、三戸政和著、講談社プラスα新書、2018年。

上掲書を読んで感じたことはふたつです。

2019年、金融庁が「退職後、95歳まで生きる場合は、公的年金以外に2000万円のお金が必要」と報告し、世間(というよりも、野党およびメディア)が大騒ぎしました。

いっぽう、本書の三戸氏(1978年生まれ)によれば、

引退後、そこから始まる40年もの長い老後を「老後破産」することなく、家族にひもじい思いをさせることもなく、豊かで楽しく生きるためには、60歳から年金にプラスして1億円ほどは必要だと思います。(pp.41)

とのこと。

金融庁のほうは、男性65歳以上、女性60歳以上、95歳まで、の試算。

著者は、男女共に60歳から、100歳まで、の試算をなさいました。

計算の基礎が多少異なります。

それにしても金額の差が極端……。

わたしにはどう捉えればよいのか分らないものの、やはり危機意識をあおられ、同時に「まあ何とかなるだろう」との適当な思いも起こりました。

つぎは「起業」に関して。

章のタイトルは「だから、起業はやめておきなさい」です。

会社というものは、設立した瞬間から「出血」が始まります。出血とはもちろん、お金の支出のこと。(中略)
家賃、光熱費、交通費や宿泊費など、自分で払うとなると「バカにならない金額」であることにすぐ気づくでしょう。サラリーマンであれば当然支給されていた費用を自分で払ったとき、その重みを感じます。自分で会社を始めると、タクシーなんて恐ろしくて乗れません。
そして、もっとも重いのが人件費です。誰かを一人雇った瞬間に、毎月数十万円という経費が出て行きます。数人雇えば、手持ちの1000万円ぐらいは、あっという間に消えます。(pp.47)

長崎メンタルヘルス社を起業したわたしには身につまされる一節です。

お書きになっているとおりの体験をしました。

起業して自分で事業を作ることは、ゼロからイチを生み出し、ようやくイチができたものを10まで自分で育てていくことです。それができる人は、本当に一握りです。(pp.52)

ゼロイチ起業には「向き不向き」があります。その能力や準備がない人に、無謀な挑戦をして欲しくはありません。(pp.60)

起業家として成功するためには、どんな苦難があってもへこたれない強靭な(ぶっ飛んだ)精神力や強烈な運も持っていなければいけません。ゼロイチ起業家になり、成功するのは、このようにとてつもなく困難なことなのです。(pp.68)

わたしが会社をつくったとき、この本はまだ世に出ていませんでしたが、もし読んでいたら、わたしは恐れをなして「ゼロイチ起業」を中止したかもしれません。

強い説得力を有していますので。

そして著者は、起業して苦労したり失敗したりするよりも、売りに出されている会社を買って「後継社長」になるべき、こう主張されました。

ひとつの発想ではあると思います。

しかし、わたしは読み進みつつ「自分には無縁な話題」と感じました。

なぜならば、本書は実のところ『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』ではなく『大企業のサラリーマンは300万円で~』だったからです。

大企業に所属したことがないわたしに迫ってくるような内容ではありませんでした。

金原俊輔