最近読んだ本397

『RAGE 怒り』、ボブ・ウッドワード著、日本経済新聞出版、2020年。

著者(1943年生まれ)の「米国トランプ大統領シリーズ」第2弾です。

前作、

ボブ・ウッドワード著『FEAR 恐怖の男:トランプ政権の真実』、日本経済新聞出版社(2018年)

については「最近読んだ本220」で寸感を述べました。

今回の『RAGE 怒り』。

本書の途中まで、トランプ大統領への直接インタビューに基づき、彼がいかに行き当たりばったりであるか、どれほど自分本位であり周囲と良好な関係を築き得ない人物であるかが、さまざまなエピソードを交え詳説されています。

著者が概括した大統領像は、

肥大した個性。組織化の失敗。規律の欠如。自分が選んだ人間や専門家を信頼しないこと。アメリカの社会制度の多くをひそかに傷つけるか、あるいは傷つけようとしたこと。人々を落ち着かせて心を癒やす声になるのに失敗したこと。失敗を認めようとしないこと。下調べをきちんとやらないこと。オリーブの枝(和解の提案)を差しのべたり、他人の意見を念入りに聞いたり、計画立案ができなかったこと。(pp.506)

こんな風でした。

人が他者の思考や感情を類推する能力を、心理学は「心の理論」と呼びますが、トランプ氏にはどうやら心の理論が不足している模様です。

氏を題材とした書籍多数を読み、ニュースを視聴し、新聞記事だのネット情報だのにも目を通してきた結果、わたしは本書前半に特段の意外性をおぼえませんでした。

ところが、半ばから話が「トランプvs新型コロナウイルス」「アメリカ合衆国vs新型コロナウイルス」へと移り、なにしろ現在進行形でわれわれ全人類が苦闘している大問題ですので、俄然ページを繰るのが止まらなくなります。

ホワイトハウスの新型コロナウイルス対策本部が3月31日に発表した数理モデルについて、暗澹たる見出しが現われはじめた。ソーシャル・ディスタンスのような感染ペース緩和策を講じても国内の死者は10万~24万人、緩和策を講じなければ150万~220万人だと、その数理モデルは予想していた。(pp.392)

報道によれば2021年1月現在、アメリカにおけるコロナ死者数は40万人に近づきつつあり、おそらくこれは、ソーシャル・ディスタンスの軽視やマスク着用拒否といった、うまく機能していない「感染ペース緩和策」が原因でしょう。

そしてトランプ大統領は、疫病の蔓延に関し中国の習近平主席の思惑が働いていると考え、ホワイトハウスに電話してきた著者へ次のように語りました。

「こういうこともありうるかもしれない、ボブ。つまり、ウイルスは外に漏れていたし、習はそれを封じ込めて世界各国にひろまらないようにしたくはなかった。完全に封じ込めたら、中国だけが大きな不利益をこうむる。(後略)」
それを聞いて、私は愕然とした。習近平主席が故意にウイルスをひろめたとトランプが考えるとは、夢にも思っていなかったからだ。(pp.437)

可能性がないとはいえません。

著者ウッドワード氏ご自身も、別の取材の折、トランプ大統領に向かって、

大統領の補佐官数人がもっと不気味な話をしているとわかっています。「これがきわめて陰湿で極悪だという証拠があります。中国がわざと見逃した……ウイルスの拡散を見逃したというのです。どう思いますか?」(pp.467)

こうした発言をなさったのです。

かくして、ドナルド・トランプという政治家の月旦評を企図した本書の枠組みを超え、予期せぬ、悪質・深刻な疑惑が提示されました。

向後、当該疑惑の真相は明らかになるのでしょうか。

場合によっては世界が中国と対峙することになるやもしれません……。

それはそうと、月旦は?

著者は、本書最終ページ最後の1行を用い、印象にのこる文章にてトランプ大統領への評価を吐露していらっしゃいます。

金原俊輔

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