『理系の子:高校生科学オリンピックの青春』、ジュディ・ダットン著、文藝春秋、2012年。

 

アメリカでおこなわれている「高校生科学オリンピック」出場者たちのエピソードをまとめたノンフィクションです。
登場人物は全員が高校生です。
ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも高校時代にはこんなふうだったのではないか、と思わせるような顔ぶれでした。
ただし、だれもが順境を享受しながら研究にいそしんだわけではありません。

 

ある男子は、罪を犯したため少年院に収容されており、武器に変わり得るシャープペンだのコンパスだのは貸し出し制となっている環境のもと、火星の探査機が送信しインターネットに公開されている各種データを分析しました。
分析をとおして火星の地下に水脈が存在する場所を推定しました。
数か月後、NASA(アメリカ航空宇宙局)から飛びたったロケットが当該地点にまちがいなく水が流れている事実を確認しました。

 

ある女子は、ハンセン病にかかっていると診断され、失意のどん底に落ちました。
けれども、やがて彼女は立ちあがり、自分の病気について調べだします。
そして同病が不治の病いではないことを知りました。
治療を受け、自身の菌が死滅してゆく様子を観察し、観察記録を科学オリンピックで発表しました。

 

アメリカ先住民(むかしは「インディアン」と呼ばれていました)ナヴァホ族の少年は、スクラップ場に廃棄されたバスに家族と住んでいました。
電気がないため暖房も利用できません。
彼は、寒い冬に喘息で苦しむ妹を助けるべく、バスの周囲に捨てられているポンコツ車のラジエーター、自転車の破れタイヤ、炭酸飲料水の空き缶、などを集めて組みあわせ、太陽光エネルギー回収装置をつくりあげました。
バス内があたたかくなり、病気の妹はすくわれました。
装置を科学オリンピックで展示した少年自身も奨学金を獲得し、理科の教育レベルが高い学校へ編入しました。

 

同書では、まだまだたくさんの感動的な逸話が紹介されています。
人は、どれほど困難な状況に置かれていても、どのようなハンディキャップを背負っていても、意欲さえあれば学ぶことができる、知恵をしぼればめざす目標に到達できる、という力強いメッセージがこめられた一冊でした。

 

金原俊輔